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夏・前偏

現パロ。現パロ妄想とは違いちゃんと人間です。モブ×クライド。痴漢シーンがあるので注意

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「お兄さん、いつもウチのコーヒーを飲んでくれるよね」

カラン、とアイスコーヒーに入った半透明の氷が揺れる。日本の夏はジリジリと暑い。もう少し気温が低ければ熱いエスプレッソコーヒーを頼んでいたのだが、この暑さに耐え切れず、俺はアイスコーヒーを頼んだ。シンプルなガラスのコップは、青いダイヤ型の模様が描かれている。涼しげな印象を持たせた。

「・・・」

俺は店主の言葉の意味を推し量ね、黙って視線を合わせた。元々無口で愛想のない俺は、いつもこの喫茶店でコーヒーを一杯頼み、勘定をして帰る。店主と会話らしい会話はした事がない。親しい友人とでさえ俺は相槌をするだけで、話題を広げることは全くしないのだ。というか、苦手なのでできない。

店主は黙り込む俺を無視して言葉を続ける。

「いつもご贔屓に、ありがとうね」
「・・・俺は、別に・・・」
「謙遜しなくていいよ、外人のお兄さん。・・・常連さんにはコレを渡してるんだ」

言って店主はカウンターの下から封筒に入っている何かを取り出した。

「ウチの割引券と図書カード」

封筒から2枚の紙が出てきた。片方は喫茶店の名前が書かれた長方形の紙だ。「1年間50%OFF」とプリントされている。もう片方は「TOSHO CARD」という文字がプリントされ、その下には「¥5000」とあった。・・・プレゼントというには高額すぎる。

「・・・それを貰うのは、悪い。大したことはしていない」

毎日開店時にコーヒー一杯飲んで帰るだけである。しかし店主は頭を振った。

「お兄さんは十分ウチに貢献してくれてるからね」
「・・・?何の話だ」
「気づいてないならいいよ。取り敢えず貰ってくれよ」

そう言って店主は強引に割引券と図書カードを押し付けた。そういえば、店主は俺よりも背が高い。日本人にしては珍しいな。そんなどうでもいいことを考えた。



暑い。暑すぎる。俺は長袖のシャツを着たことを後悔した。まだ7月も序盤だと侮ったのがいけなかった。携帯でニュースを確認すると、どうやら今日の東京○○区は真夏日を迎えたらしい。友人の待ち合わせ場所まで向かうのに電車に乗ろうと考えたのがまずかった。人が詰め込まれた密室状態に長袖のシャツは厳しい。下はもちろんジーンズである。

割と後から乗り込んだので空いている座席はもちろんない。電光掲示板に流れる駅名を見ながら、心の中でため息を吐いた。途中で降りてしまおうか。しかしこの炎天下で待ち合わせ場所まで歩くのは少し無茶だ。ただでさえ無駄な厚着なんだから。

日本人からすれば外人というのは浮いた存在なため、空いている時に乗ると俺の周囲に人が集まることはまずない。時たま人懐こい日本人や、同じ国の出身の観光客が話しかけてくるが、前述の通り元来無口な俺はひと睨みして追い返してしまう。だがこの満員電車の中で俺の「外人である」というフィルターは意味を成していなかった。とにかく全員が目的の駅に着くことを只管待っている。

ふと、腰のあたりに何かが当たった。後ろにいる誰かが身じろぎをしたせいだろうか。避けるように少し体を動かすと、何かが離れた。違和感が拭えない。また腰に何かが当たる。なんだか気味が悪い。と、するりと何かに腰を撫でられ、眉根を寄せた。これは他意があるのか、ただの事故か。何はともあれその「何かの」正体を見ようと首を動かそうとすると、

「こっちを見ないで」

首元に吐息がかかる。ねっとりと熱い。気持ち悪い。なんだこれは。俺より背の高い男のようだった。腰に当てられたのは手か。気持ち悪い。意識が混沌としている。暑さで脳が冒されているのか、この奇妙な状態に混乱しているのか。どちらともだろう。

「それとも英語の方がいいかな」

どういうわけか日本人は外人=アメリカ人と思っているらしく、外人と話そうとすると必ず自分のもてる全ての語学力を駆使して英語を話そうとする。

「・・・」

相手にするのも馬鹿らしいと思ったので無視した。

「まあいいか・・・少なくとも聞き取りはできるようだからね」

こっちを見るな、に反応したんだから、言葉の意味はわかるのだろうと続ける。観察力が高すぎる。ぞわりと全身が粟立った。

「ずっと見ていたんだ。お兄さん、綺麗な体をしているね」

言葉を聞き取るのもやっとというボソボソとした喋り声。どこかで聞いたような気がするが、それが誰かはわからなかった。似たような声を居酒屋か何かで聞いたのだろうか。

「・・・」
「無口なところも可愛い」

それにしても気持ち悪い。早く目的の駅についてほしい。そう思っていると腰に触れていた手が尻に向かった。ふざけんな。電光掲示板を見ると、目的地まであと1駅だ。1駅分くらいなら歩ける。この駅で降りよう。

そうこうしていると手が尻を撫ではじめた。やめてほしい。横にいるタンクトップの女のほうが綺麗だろうが。全く興奮しないどころか乗り物酔いのような吐き気と頭痛が襲ってきた。――おかしい。乗り物酔いなんてした事がない。それにこの吐き気と頭痛は二日酔いと似ている。サッと血の気が引いた。

「まさか」
「気づいたかな」

喫茶店の店主だ、コイツ。

ハッとして振り返ると、嫌みたらしい笑みを浮かべた背の高い男が立っている。あまりの衝撃にめまいがして体を揺らすと、店主は大げさなくらい声を上げた。もう駅に着くぞ。おい。

「ああ、大丈夫ですか?大変だ、顔色が悪い」

周囲が俺を見る。電車がキキィー・・・と停止する。駅についた。まずい。これは。本当にいけない。

「一度降りて休んだ方がいいでしょう。すみません、道を開けてくれませんか」

まずい。まずい。まずい。吐き気と頭痛が。頭が冷静に動いてくれない。手を引かれホームに降りる。体調が悪いのはきっとアイスコーヒーに何か混ぜたのだ。俺が店を出たあと、店主は俺の後をつけてきたのだろうか。何故こんなところに。店は。そうだ、店――早く気付くべきだった、今日は火曜日。あの喫茶店の休業日だ。何故気付かなかったんだ。馬鹿か。

「さあ、行こうか」

強引に手を引く。――と、誰かが名前を呼ぶ声が聞こえてきた。聞き覚えのある、少し高い掠れた大声。

「クライド!」
「ビリー・・・」
「待ち合わせ場所ってここだっけ?」

息を切らせて走ってきたビリーを冷たく見返す。が、助かった。店主の手を振り払う。

「お、おい」
「あ?なんだこのおっさん」
「気にするな」
「あっそう。・・・ん?クライド顔色悪くね?どしたん」
「なんでもない。行くぞ」
「あ、ちょっと、クライド!どうしたんだよお前!」

ビリーの腕を引っ張ってその場を後にした。ああ本当に、助かった。
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