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シチュー

レイチェル「キノコと愛情たっぷりよ♡」
ロック「命日かな???」

セリス「愛情たっぷりだから!」
ロック「命日かな・・・(深刻)」

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彼女の料理は美味しい。たとえそれが何の変哲もないサンドイッチでも、その味付けは俺好みに施されている。切って盛り付けただけのサラダでも、ドレッシングは彼女の手作りだ。彼女の手作りパンは食べれば餅かと錯覚するくらい柔らかく、咀嚼すればふわりと香りが鼻を抜ける。俺でも作れるカレーだって、彼女にかかれば絶品料理だ。ゴロゴロした肉とじゃがいもと人参はほどよく火が通っていて、ルーは辛すぎなくまろやかな味。付け合せのスープはあっさりした塩味にキャベツやほうれん草が浮かんでいるものだ。

と、話が大幅に逸れてしまったが、とにかく俺ことロックの彼女――レイチェルは、料理上手だ。だからこそ俺は前まで嫌いだったピーマンもほうれん草もグリーンピースも克服できた。ただ一つを除いては。

「はい、召し上がれ」

テーブルに乗せられた白地に青い花の模様が描かれたシンプルなスープボウル。薄黄色のスープはどこからどう見てもシチューだ。牛乳の香りが鼻腔を掠める。底が深い食器を選ぶだけに具沢山らしく、カレーの時と同じようにゴロゴロした鶏肉、じゃがいも、人参。緑色の葉はほうれん草だろうか。白菜も入っている。多分玉ねぎも入っているだろうが、火を通すとほとんど見えない。――そして俺は、『ヤツ』の存在を見て冷や汗が流れるのを感じた。

「あ、あの・・・レイチェル・・・」
「本当はね」

彼女は楽しそうに満面の笑みで俺を遮った。

「エリンギも入れようかと思ったの。けど、いきなり何種類も食べるのは大変でしょう?」
「れ、レイチェル」
「今までたくさんのお野菜を克服してきたロックなら、きっと、ぶなしめじを食べきれるわ」

今日が俺の命日なんだろうか。俺はパンに手をつける前に具を成敗しようと、スプーンを手に取った。



「そんなことがあったなあ」

俺は目の前に広がる真っ黒な液状の何かを見て呟いた。俺以外に座席に座っている者を見れば、他に巻き込まれた男連中も同じような顔をしている。可哀想にと思う反面、俺もその仲間だと思うと悲しくなった。

「ご、ごめんなさい、ちょっと失敗しちゃって・・・捨てようと思ったんだけど、エドガーがお皿を用意しちゃってね・・・そのう」

セリスが調理をはじめる前より幾分か汚れたエプロンをつけたまま、モジモジと言った。俺がバッと首を動かすと、他のみんなもエドガーを見たのがわかった。周囲の非難がましい視線に、少しも悪びれもせず色男は「レディが料理をしたならそれを食べるのが男の役目だろう」と言った。アホかコイツは。

「ロック・・・」
「・・・あ。うん。なに?」
「分かりづらいかもしれないけど、キノコ入ってるの」
「・・・」
「無理に食べてとは言わないから」

なるほど。そういうことか。料理が苦手な彼女がキッチンに立ったのは、俺にキノコ嫌いを克服させようという善意からなのだ。レイチェルも同じことをしてくれた。結局キノコ嫌いを克服することはなかったけど――そう、レイチェルのシチューでしか食べることができなくなっていたのだ。それは克服とは言えないけど、彼女は嬉しそうだった。

俺は席を立ってセリスの手を掴んだ。

「俺の命をかけて全て食べるよ」
「・・・それはなんだか複雑ね」

セリスは嬉しそうにはにかんで言った。

「おい、早く席に付け生贄」
「そうだぜ生贄」
「俺を生贄というのをやめろ!それに見てくれはちょっと悪いけど、味は案外イケるかもしれないだろ!」

ぎゃあぎゃあ騒ぎながら席に着く。全員がスプーンを手にとった。意気揚々とスープを掬うと、黒い何かはでろりと垂れる。・・・気にしない、気にしない。大口を開けて、




そこから先の記憶がない。
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