忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

夏・後編

前編の続き。後編ってあるから当然だけど。ビリクラ

拍手


「なあ、本当にどうしたんだよ?」

ビリーが屈託なく話しかけてくる。痴漢されたとは言いづらいので話題を逸らした。

「・・・なんであの電車に乗っていた」
「あ?ああ、お前と別の車両に乗ってたんだよ、待ち合わせの居酒屋行くために。したらお前っぽいのがホームに降りてくからさ、もしかしたらって思って俺も降りたんだ」

なるほど、そういうことだったか。改めてビリーを見ると、彼は俺のような厚着ではなく、シンプルな黒のタンクトップに涼しげな白いシャツを羽織るように着ていた。下は深緑色のクロップドパンツだ。全身黒の俺よりは幾らか涼しいだろうが、それでも額には汗が浮かんでいる。

「・・・少し調子が悪くて降りただけだ」
「あのおっさんは?」
「ただの知り合いだ」
「・・・ふぅん?」

素っ気なく言うと、ビリーは納得いかないように唇を尖らせる。黙って顔を逸らした。吐き気は大分薄れたが、やはり頭痛がきつい。ズキズキと、緩やかに痛みが走ったかと思えば激痛が襲う。一体何を混ぜたのか。それを考える程の余裕はなかった。

ビリーが眉根を寄せた。

「尋常じゃねえくらい顔色悪いぜ、ちょっと店入ろう」
「・・・」

言って指を動かしたのは喫茶店だった。無論、あの男の店ではない。だがなんとなく抵抗感があった。そんな俺の心情も露知らず、ビリーが俺の腕を引く。扉を開ける。からんころん。鈴の音がした。店内は冷房が効いているらしく、程よい冷気が汗で濡れた首を冷やす。

店員に席を案内され、他の客と少し離れた角の席に座らされる。ビリーが頼んだらしい。目の前にお冷が置かれる。「あんがとー」そんなビリーの声に笑顔で応対し、店員は腰を折って去っていった。

「ご注文お決まりでしたらお呼びくださいだって」
「・・・そうか」

なんとかそれだけ言ってお冷に手をつける。グラスの淵に口をつけて水を飲むと、食道から胃へ飲み物が降りていくのを感じた。短く息を吐く。少し視線を上に移すと、ビリーがこちらをじっと見ていた。

「・・・顔がいいと得だよな」

よくわからないことを言う。

「それより今思ったんだけど、お前熱あるんじゃねーの」
「は?」
「顔赤いんだって・・・ちょっと触るぞ」

言って腰を上げる。額に手を当てようとするので横に避けると、当然のように「よけんなよ」と言葉に刺を含ませる。が、いつものことなので無視をした。暫くそんな攻防を続けていると、飽きたのかそれとも無駄と思ったのか、ビリーは腰を下ろした。

「暑さのせいかな」
「そうじゃないか」

頭が痛い。

「顔が赤くて血の気が引いてるって、すげえ矛盾だよな」
「そうだな」
「でもお前そういう顔色してんだよ」
「そうか」
「他人事だなー」

ズキズキと。

「なんか頼むか?」
「・・・勝手にすればいい」
「じゃあこの苺パフェ二つ頼むか」
「・・・・・・チョコにしろ」
「わかった」

頭痛が。

店員を呼んで注文をするビリーを横目に、あまり日光が当たらない場所なのか、少し影の落ちた窓の外を眺める。今まで歩いてた道は結構大通りだったらしい。何台もの車が走って排気ガスを吐き出している。仕事帰りか、それともこれから仕事へ行くのか、スーツ姿の男女もたまに見かけた。

憂鬱に溜息を吐く。頭が痛い。まだ冷静じゃないようだ。水を飲む。冷たい感覚が心地よい。と、頬に冷たい何かが当てられて正面を向いた。ビリーの手だった。

「つめてーだろ」
「・・・突然なんだ」
「暑さで参ってるみたいだったから」

気持ちいいだろ俺の手。そう言ってはにかむ。普段なら払うが、そんな気は起きなかった。そのままにしていると、頬をつままれ思い切り払った。

「何をする」
「いや、あんまり抵抗しないから」
「・・・」

眉根を寄せて目を細めると、「そんな目で見んなよ」と頬を膨らませた。それを冷めた目で見つつ、ヒヤリとした手が離れたと思うと少し名残惜しい。水を口に含む。カラン、と氷が音を立てた。ぞわりと全身が粟立つ。頭痛がする、寒気がする。痛い。とても痛い。心臓が早鐘を打つ。

「クライド?」

返事は出来なかった。額に手を当ててゆるゆると頭を振る。痛い。痛い。痛い。

「クライド」

視界がひっくり返った。



目を開けると何度か見た天井が視界に映った。俺の部屋ではない。ビリーの家だ。起き上がろうとすると声が聞こえた。

「やめとけ」

ビリーの声だ。無意識に安堵が広がる。不安だったのだろうか、俺は。柄でもない。自分で自分に呆れつつ、声の方を見ると、水の入ったコップを持ったビリーが立っていた。空いている手で頭に指をトントンと当てるジェスチャーをする。額に手を当てると冷えピタが貼ってあった。

「熱中症だってよ、馬鹿。あと倒れたのは遅効性の睡眠薬の影響もあるだろうって」
「・・・」
「あ、一回病院行ったんだよお前。でもめんどくさかったから診察だけ受けて連れて帰ったんだ」
「・・・何故」
「聞きたいことがあったから」

そう言ってビリーは俺の寝ている布団(海外育ちの癖にビリーのやつは布団で寝たがる。床も畳だ)の傍らにコップを置き、畳の上であぐらをかいた。

「あのおっさんと何かあったんだろ」

じっ、とこちらを見つめる三白眼の視線に耐えられず目を伏せる。しかし、グイと顎を動かされ無理矢理視線を合うようにさせられた。ビリーは押しが強い。それは無神経というのもあるが、人に対する思いやりもあるためだ。思いやりがあるからこそその人を知ろうとする。知ろうとしようとすると、必然的に押しも強くなる。

「お前、毎日家の近くの喫茶店でコーヒー飲んでるって言ってたよな」

いつ言っただろうかと考え、すぐにヒットした。先日酒の席でうっかり零したのだ。

「あのおっさん、その喫茶店のヤツじゃねえの」
「・・・」
「店員か店主かはどうでもいいけどさ」

頬に両手が添えられる。少し震えていた。

「なあクライド」

三白眼にある黒目は、ポッカリと穴が穿たれるかのように、何も映していない。

「なんで隠した」

ゾッとするほど感情がなかった。

「言うほどの事ではないだろう」
「何をされた。あいつに」
「なにも」
「嘘だ」

言い切るビリーの声が震える。

「嘘だ」

唯一晒された右目は潤んでいた。壊れた玩具を抱えるに頭をかき抱かれる。仕方なく背中をトントンと叩いてやると、ビリーは俺の首筋にキスを落とした。

「誰にもやらねえからな」
「・・・知っている」
PR

プロフィール

HN:
ヨーカ
HP:
性別:
女性
自己紹介:
オインゴが嫁でシャドウが愛人です

■連絡等はT│wit│terか拍手からお願いします

P R