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おっさんと子供

現パロ。ビリー(30)とクライド(10)が同じアパートで暮らすことになる話。中途半端

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「俺がァ?」

ビリーの素っ頓狂な薄汚れたアパートの一室に響いた。ぎし、と受話器を持つ手に力が入るのにも気づかず、電話線の向こうで苦笑いを浮かべているであろう女性に抗議する。

「嫌だぜ、ガキの子守なんざ」
「あなたしか宛がないのよ。それに、たった1ヶ月面倒見るだけよ。あの子の分の生活費はこっちで出すから」

ほとんど金の心配をする必要はない、という事に関しては安堵の息が漏れる。なんてったって30歳になった今でも定職に就かずあちらこちらでバイトをしてはその日生きる金だけを貯める生活を続けているのだ。一言でまとめるとフリーターである。無職でないだけマシだ。

外人であるビリーは、日本人より優遇されるし客寄せパンダにもなる。お世辞や自惚れではなく整った面立ちをしているからだ。しかしそれに甘えられるのも若い間だけ。・・・いい加減きちんとした職につけと、実家から態々国際電話を使って小言を言う母親を思い出し、ビリーは思わず目を伏せた。そんなことは自分が一番わかっている。

「それにしたってよ、・・・そういうの向いてねえぞ、俺」
「大丈夫、あなたなら」

ビリーと話しているのは4つ上の姉だ。10年前、姉が22歳の時結婚した。当時18歳だったビリーは姉に良い人がいるなんてまったくもって微塵も知らなかったため、通告が来たときはえらく驚いた。最初こそ新郎は気に食わなかったが、姉に寄り添う男に違和感を感じず、言いようのない感慨に浸ったものだ。ちなみにビリーは彼女がいた事はあるが、長続きしたのは最高で3ヶ月だ。現在彼女募集中である。

「私が駆け落ちして、ダッドとマムから縁切ってるの知ってるでしょ?」

そう、そうなのだ。父親も母親も何かと厳しく、一切の妥協を許さない。性に関してもありえないほど潔癖で、結婚したと言っても切っ掛けは子供が出来た事からだった。なので二人は書類上夫婦だが、結婚式自体は友人だけでこじんまりと行われた。結婚が許されなかったのだ。

だから、姉夫婦が『1ヶ月ほど海外出張へ行く事になって子供を預ける宛が実の弟くらいしかない』のは当然と言えば当然だ。友人に頼むのもありだが、できる限り親族がいい。旦那の親族は皆結婚しており、一家団欒を邪魔するのは気が引ける。そこで未だに独り身のビリーに白羽の矢が立った。

「あァ~~~・・・もう、わかったよ。わかった。やるよ、子守」
「本当!嬉しい、今ここにあんたがいたらほっぺとおでこと鼻にキスするのに!」
「・・・で、なんだっけ、名前」

スキンシップが多い姉の言葉を無視して尋ねると、姉は言った。

「クライド、よ。C、L、Y、D、Eでクライド」



「じゃ、よろしくね!」

空港でひらりと手を振って立ち去った姉を見送り、子供を見遣る。色素の薄いブラウンの髪は、癖毛なのかあちらこちらでぴょんぴょん跳ねている。目の色は緑で、面立ちはどことなく姉に似ていた。身長はビリーの腰より少し高いくらいで、聞いていた年齢より幼い印象を持たせる。

「えーと、」
「アンタがビリー?」

いきなり呼び捨てである。思わず怒鳴りそうになった自分を押さえ込み、腰をかがめて優しく言ってやる。
 
「年上には敬語だろ」
「は?敬語って『敬う言語』って書くんだろ?」

クソ生意気だ。鼻にかけたような言葉遣いは、ビリーの最も苦手とするタイプだった。記憶の糸をたぐり寄せる。確か10歳とか言ってたな。それにしては口が達者な奴だ。

「・・・冗談だ、置いてかないでくれ」

じっと黙り込んだビリーに危機感を覚えたのか、子供、クライドはビリーの服の裾をキュッと握り締めた。これは女性ならキュンとしてしまう仕草だ。だが、何かと疑い深いビリーはその動作に違和感を覚え、オールバックなために丸出しになっている額にピン、と指を立てた。

「人を騙そうなんざ10年早いぜ、クソガキ」
 
そう言うとクライドは2、3回と目を瞬(しばたた)かせた。まさかそんな風に返されるとは思ってもみなかったのだろう。やがて鮮やかなグリーンの瞳でビリーを見ると、ゆっくりと目を細めて口元を歪めた。

「つまらない」
「こっちの台詞だ。さ、行くぞ」

これだけ小さいのだから一人で歩かせたら置いていってしまうかもしれない、そうビリーは思い、クライドの持ってきた荷物ごと持ち上げた。なんて事はない重さだが、中々腰に来る。途中でタクシーを拾った方が良いかもしれない。三十路入ったおっさんが自分の体に危機感を覚えていると、当のクライドは高い景色に驚愕したのか、ビリーの首に腕を絡めてキョロキョロと辺りを見渡していた。

「怖くねえか」

からかい混じりにビリーが訊くと、クライドは幾分興奮気味に「怖くない」と言った。



ビリーが借りているアパートの一室にはベッドなんて大層なものは存在しない。布団のみだ。両親がアメリカ人というだけで、育ちは日本なビリーはベッドか布団かで悩んだりはしなかったが、図体だけは一丁前に大きくなって布団から足がはみ出るのは困りものだった。

布団二組敷けるスペースはあるが、この子供はベッドがいいと駄々をこねたりしないだろうか。そう考えていると、意外にもクライドは特に文句も言わず、むしろ少し喜んでいるような表情で布団で良いと応えた。子供というのは素直な生き物だ。特に無理をしているような様子もないし、本人がそう言うならとビリーも頷いた。

「今日の晩飯何にすっかな」
「ビリーが作るのか?」
「いや、俺作れねーからコンビニ飯・・・あ~・・・ケンコーに悪い?」
「・・・Motherならそう言う」
「マザーってお前。堅苦しい呼び方だな」
「・・・」

姉でさえ父親はダッド、母親はマムと呼んでいるのに。空港で敬語で話せと言った事が今になって効いているのだろうか。それにしたってビリーに対する遠慮などは微塵も感じられない。普段からそう呼んでいるのだろう。

「んー、面倒だけど作るか。うち何もねえから買い出し行くぞ。出掛ける準備してこい」
「!!・・・俺も一緒に行くの?」
「当たり前だろ。こんなとこで一人留守番何かさせるかよ」

子供なのだから一緒に連れて行った方がいい。こちらは預かっている身分だ。そう良心で言っているのだが、どういうわけかクライドは目元を釣り上げた。

「子供じゃない」

いや子供だろ。

「何怒ってんだよ。お菓子とか買ってやるぞ。おもちゃは流石に買えねーけど」
「いらない、そんなもの」

淡々とした言葉に刺を孕ましているクライドに、ビリーはどうしたものかと頬をかいた。
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