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結婚式

ビリクラが殺しの仕事する話。いつも通りご都合主義の捏造話。中途半端に終わる。女装やら流血表現やらモブやらいますので苦手な方は注意


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丸く円を描くような天井の真ん中には、豪奢なシャンデリアが下がっており、左右に立ちそびえる白い柱には様々な色の薔薇と茨が飾られている。正面と壁には大きなステンドグラスから色とりどりの光が放たれている。レッドカーペットを挟むような形で長椅子が並んでおり、それは典型的な礼拝堂であった。長椅子には礼服を着込んだ沢山の男女が、カーペットを歩く男女を見守っている。

フリルをふんだんに使った純白のドレスを着た新婦は、頭部を覆う薔薇の飾りが付いたベールを付けており、顔を俯いているため表情は窺えない。しかし晒された肩口や鎖骨は抜けるように白い。ベール越しに丸く束ねている髪色は茶髪のように見える。新郎と然程身長差はないが、スレンダーな女性なのだろう。肩幅は広いが決して男の女装とは思えない。

新郎は、そんな恥ずかしがり屋の新婦を悠然とエスコートしつつ、美しい花嫁を持ったことを誇りそうに胸を張って歩き続けた。下品ではない、小太りで温和な面立ちの神父の前に二人が立つ。淡々と質問が告げられ、新郎が是と応えた。新婦にも質問が投げかけられる。然し沈黙。何も喋らない。新郎が眉を顰めた。

「どうした?クラーラ」
「………わたし」

ボソボソとした小さな声だった。新婦の声を聞き取ろうと新郎が口元に耳を近づけると、何枚もの布を突き刺すかのような、重たい音が礼拝堂内で響いた。新郎が目を大きく見開いて、緩慢な動きで腹部を見る。新婦が離れたとき、また新郎もよろよろと新婦から離れた。腹に、ナイフの柄を植え付けて。

最初に叫んだのは誰だったか。女性の金切り声と男性の怒号が響き、誰かが礼拝堂の扉が開かないと悲痛に喚いた。新婦はというと、肩を震わせて笑っていた。彼女が持っていたブーケにナイフを忍ばせていたのだ。彼女は新郎が近づいたその瞬間、無防備な腹にナイフを突き刺した。新郎は物言わぬまま倒れ伏している。

「く、クラーラ!何のつもりなの!?」

母親らしき中年の女性が新婦の足元に縋り付いた。――が、直様新婦の靴に顔を踏まれ、蛙のような悲鳴を上げて頭を抱える。クラーラと呼ばれた新婦は何かを取り出した。ドレスはフリルが多く、ヤケにシルクの布を巻きつけたデザインとなっている。腰を覆う薔薇を象ったその部分から、茶地な果物ナイフよりも使い古されたダガーナイフが2本現れた。

それを見た男が飛びかかるが、クラーラが腕を振ると男の頸から濃厚な血液が噴き出す。クラーラはまるでアサシンかのように次々とその場にいた人間を殺していった。

最後の一人が惨めに崩れ落ちる。クラーラはふ、と浅く息を吐いて周囲を見渡した。他に気配は無い。息をしている人間はいなさそうだ。先程まで幸福な空気で溢れていたのが信じられないほど、式場は惨劇の舞台を化していた。
 
「……チッ」

クラーラは低く舌打ちをすると、血塗れになった元は純白のドレスをそのままに、真ん中のステンドグラスの前に腰を下ろした。そしてドレスを破り右手に巻き付け、2、3度と大きく腕を振りかぶり、ステンドグラスを割った。そのままキョロキョロと外を見渡すと破れたドレスのまま外へ飛び出した。今回は『暗殺』ではない。『人に見られることが目的』なのだ。

クラーラ否、女装したクライドは、やや面倒な依頼に溜息が出そうになるのを抑え、必死に女性らしい歩き方をしながら町へと向かった。



「どうか、私の姿で一族を皆殺しにしてください」

全く奇妙で面倒な依頼だと思った。ビリーと顔を見合わせてから詳しく訊いてみると、どうにも依頼主の女性は両親に無理矢理婚約の契りを結ばさせられた事、相手が自分の嫌いな帝国兵士である事、その相手は女を道具としか考えていない最低の屑でこの世界のゴミ、生きる価値のない腐った血袋と語った。両親は今でさえ普通に接しているが幼い頃は平気で肉体的虐待も性的虐待も行い、柔かに優しい言葉をかけてくる姿に嫌気が差した。親族も知っていて何もしないし、相手の親族はどれも犯罪ギリギリの行為を行う屑しかいない。

これを一息で言い放った女性、クラーラは、

「今度結婚式があります。私は特殊な訓練をしていません。曲がりなりにも軍人の彼の寝首を掻くのは無理があります。なので、私の姿で結婚式に出た人間全て皆殺しにしてください。代々のしきたりで、式場には親戚しかいないはずなのです」

と決心のついた表情でクライドに向かって言った。そう。『クライドに向かって』言ったのだ。

「……アンタの姿って事は、何か?その…女装しろって?」
「ええ。あの、…バンダナのあなたではなく」
「俺に?」

自分の顎を指差し、怪訝そうに尋いたクライドにクラーラは悠然と頷いた。それ以外に何があるのか、とでも言うかのように。ビリーが額を腕に押し付けた。頬が膨らみ、口から息が漏れている。抑えきれないように肩を揺らすビリーにクライドが思い切り足を踏んだ。

「いっでぇ!」

飛び跳ねて騒ぐビリーに、実行した当人は冷やかに睨む。

「笑ったからってそんなに怒るなよ」

笑いの余韻を残した声音で言うと、今度こそクライドは手加減なしにビリーの足を踏み付けた。今度は悲鳴を上げる暇もない。歯噛みしながら身悶えするビリーを無視してクライドはクラーラの方を向いた。その表情はいつもの無表情だった。

「依頼は構わない。やろう。だが、そうなると真っ先に狙われるのはアンタだ。捕まって処刑されてもいいのか」
「そうだよ、クラーラちゃん、折角可愛いのに。結婚式バックれて俺たちだけで暗殺してもいいんだぜ?」

クラーラは苦笑を浮かべて頭(かぶり)を振った。

「いいんです。お優しいんですね、盗賊で人殺しなのに」
「……」
「…理由は?教えてくれないの?」

彼女の言葉を受けて沈黙してしまったクライドに代わって言及するビリーに、クラーラはやはり、苦笑を浮かべて頭を振った。



何人かの町人に目撃されたクライドは、自慢の足を使って早々にビリーとの待ち合わせ場所に逃げ帰った。そこにはクライドと同じ格好――と言うと語弊があるが――の女性、クラーラが微笑みをたたえながら佇んでいる。ビリーが苦々しげにクライドを見た。

「派手にやったな」
「…ああ」
「ありがとうございます、クライドさん」

クラーラが仰々しく腰を曲げた。クライドが黙って頸を横に振る。
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