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ジェイドとティア

ティアちゃんが影で鍛錬してたら可愛いと思います。短い


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西日が眩しい。赤く白光した太陽が海面へ向かって徐々に落ちていく。先程までは雲一つないからっとした青空は、すっかり赤く染まっている。港町なだけあって、潮風が汗ばんだ肌に心地よかった。灰色がかった茶髪を持ち、ダアトの制服に身を包む少女ティアは、黙って夕焼けを見守った。

随分遠回りになってしまったが、無事カイツール軍港へたどり着いた一行は、漸くアニスと合流した。途中神託の盾と一悶着あったのだが、それに関しては割愛する。国境を越えるための旅券を手に入れたルークとティアだったが、もう随分日が暮れた事だし、と今日は宿を取り、明日出発することになった。ちなみに提案したのはガイで、真っ先に賛成したのはルークだ。他のメンバーもそれまでに色々あって(……)疲労していたので、皆特に意見せず賛成した。

ティアはというと、宿で部屋を取った後、数時間ほど鍛錬をしていた。音律士は近接戦闘に向いていない。女性で体力が少ないことを気に病んでいるティアは、士官学校生だった頃の日課という名目で、時間を見つけては体力作りに鍛錬をしているのだ。はっきりと筋肉がついているわけではないが、きゅっと締まった二の腕や太ももが、鍛錬の成果を顕著に表している。努力家ティアは、自身の女性らしさに関することは二の字だった。たわわに実った二つの水蜜桃(ルークに言わせればメロン)がなければ、言動や行動が男前すぎて性別詐称疑惑が浮上していただろう。

そろそろ夕食時だろうか、とティアがへそのあたりに手を置く。今日一日は厄日の一言に尽きた。きゅるる、と小さく腹の虫が鳴る。精神的な疲労と運動による疲労で、ティアは腹が減っていた。しかし夕食時には少し早い。いま何かつまめば夕食が入らなくなるだろう。我慢するしかないか、と重く溜息を吐いた時、ティアの背後で小砂利を踏む音が響いた。

「大佐……」

ばっと振り向けば、そこには青い軍服に身を包む痩身長躯の美丈夫。金褐色の長髪を垂らし、ゾッとするほど赤い双眸を持った男、ジェイドは、平常時と変わらぬ柔和な笑みを浮かべていた。何故か左手には茶色い紙袋を抱えている。

「いやぁ~意外と動くんですねぇ、ティアは」

言いながらティアの隣へ歩いてくる。かすかに甘い匂いが漂う。ティアはジェイドを見上げて、僅かに眉根を寄せた。

「見てたんですか?」
「ええ。随分熱心に鍛錬していましたね」
「……足でまといにはなりたくありませんから」

ティアはジェイドが苦手だった。それは死霊使い(ネクロマンサー)という称号に恐れをなしているわけではない。ただ、心中の何もかもを見透かしたかのような赤い瞳が苦手だった。柔和な表情を崩さない目が、実は鋭く、いつも周囲に神経を尖らせていることを、ティアは短い旅の中でよく知っていた。それは年上の男だからなのか、ジェイドという人間だからか。……後者であることに違いない。嫌味が多く、手厳しい言葉も多いが、そう悪い人間ではない事は理解している。しかし、それでもティアはジェイドが苦手だった。

今だってジェイドは、そんなティアの様子を観察するように見ている。頭の回転が早く、小さな頭に豊富な知識を蓄えているのだ、おそらくティアの心中を察することなどお手の物なのだろう。ジェイドはティアの言葉に音もなく笑うと、紙袋を差し出した。

「どうぞ」
「なんです?」
「夕食代わりです。伝え忘れていたんですが、カイツール軍港の宿屋は夕食を出していないんですよ。宿とは別に定食屋ならありますが」

あなただけ近くにいなかったもので、探しましたよ。年寄りには堪えますねえ、と疲れなど微塵も感じぬ軽さで続けたジェイドに、ティアは僅かに頬を緩めて礼を言う。次にガルドを払わなければと財布を出そうとしたティアを緩く拒否する。曰く、ガイやルークならともかく女性から代金は受け取れません、だそうだ。その好意をありがたく受け取ったティアは、丁度座れそうな石階段を見つけ、腰を下ろした。大佐もどうぞ、と言うと意外と素直にジェイドも腰を下ろす。

「これ、リンゴのサンドイッチですか?」

薄い包み紙に包まれた三角形のパン食は、一個が結構大きい。中身はヨーグルトとリンゴとチキンらしい。先ほどの甘い匂いはこのサンドイッチだったようだ。

「ええ。味は保証しますよ」
「へえ……いただきます」

一口頬張る。リンゴの瑞々しい歯ごたえと甘味が、ヨーグルトとよく合っていた。細かく割かれたチキンの食感も違和感がない。少し胡椒がきいているが、概ねティア好みの味だった。空腹だったこともあり、さっさと一切れ目を食べ終えたティアはニ切れ目にも手を伸ばす。早食いに定評があるティアだ。下品にならない程度に頬袋にサンドイッチをためて咀嚼し、嚥下する。作業のように食べ終え、静かに手を合わせて「ご馳走様でした」と呟いた。

「とっても美味しいですね、このサンドイッチ。どこのお店ですか?あ、定食屋しかないんでしたっけ」

矢継ぎ早に喋りだすティアは、子供のように青い瞳をキラキラと輝かせている。それに物怖じすることもなく、ジェイドはにっこりと笑みを浮かべた。

「私が作ったんです、それ」
「え」
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