激おこ
シャドウが激おこなだけ。シャドウとエドガーはとばっちり、ロックとセッツァーが少し酷い奴。そして料理下手セリス。短い
「申し開きはあるか」
深い緑色の双眸がぎらりと光る。冷たい視線だ。それだけで人を一人殺せる程の鋭さを持っているだろう。睨まれた男たちは肩を強ばらせた。シャドウの後ろにしがみついて離れないのはセリスだ。普段は気丈な彼女は、どういうわけかえぐえぐと嗚咽を上げている。床にはぶちまけられたスープらしき液状の何か――セリスの作った料理だ。
死んだ魚のような目でロックが呟く。
「食べたくない、セリスの料理は、食べたくない」
「辞世の句は済んだようだな」
「いやいやいやちょっと待ってくれシャドウ話をしよう」
慌ててエドガーが両手を振って押しとどめる。シャドウの右手には鋭い刃が握られていた。影縫いだ。いつの間に抜いたんだ、とセッツァーが口角を引き攣らせる。
「違うんだ」
「何が」
シャドウは言葉数こそ少ないがたった一つの言葉だけで十分人を威圧できる。こんな具合に。
「私たちはレディを悲しませたかったわけではないのだよ。そう、ただーー言葉を間違えただけで」
「その結果悲しませているんだろう」
「しかし私たちに悪意は」
「悪意がなければ何言ってもいいのか」
「おっしゃる通りです」
ロックとセッツァーは同時に視線を合わせた。エドガーが負けた。口先の魔術師エドガーが。そもそも遠回りな話を嫌うシャドウにエドガーの話術は通用しない。すぐさま一刀両断され、結論を言えと脅されて終わりである。しかも今回はエドガーたちの方に分が悪かった。
事の始まりは今日の昼時。食事は基本的に当番制で、今日はセリスが当番に当てられていた。ここ最近彼女はめきめきと実力をつけて、以前は誰もが卒倒するほどの強烈な料理を作っていたが、少しずつ上達していた。ティナやリルム程ではないが、「あ、普通だ」程度にはなったのだ。
事実、今朝の朝食のスクランブルエッグは卵の殻も入ってなかったしベーコンも焦げていなかった。無論生焼けでもなかった。サラダは切ってよそうだけだが、それだって当初の彼女はやたらとレタスを細かくちぎったりきゅうりを一人一本ずつ出していたのだから十分上達したと言える。そしてさらにサラダにかけるソースはお手製の上にクソまずかったが、現在は既製品のマヨネーズを食卓に出している。
そんな彼女が今日は新メニューに挑戦した。そう、先程から妙な異臭を放っている、床にぶちまけられた液状の何かだ。これは先ほど、鍋の大きさに苦戦したセリスが躓き、鍋を落としてしまったからだ。そこまでは良い。「ごめんなさい、今日のお昼は各自外食してくれないかしら」とか言えばいい。野郎共もそれで納得してさらに「じゃあ俺たちも掃除手伝うよ」とか言っておけばいつもの仲良し風景が転がっていただろう。
しかしロックは口を滑らせ、セッツァーはそれに乗ってしまい、エドガーは、……偶然居合わせただけで完全にとばっちりだったが、確かに表情を引き攣らせていた。
「な、なんだコレ。すげえ変な臭いするけど」
「対魔物用毒物兵器か?」
「……ぜ、前衛的だね」
どもりながらもごめんなさい、と言おうとしたセリスに上からロック、セッツァー、エドガーの台詞だ。主に酷かったのはセッツァーだった。
普段なら顔を赤くしながらも全力で言い返していたセリスだったが、丁度その時は飛空艇から降りて戦闘をして帰ってきた時だった。疲れていたのだ。疲労困憊のセリスはらしくもなくその言葉を間に受けてしまい、うる、と瞳を潤ませた。
「なによなによ!私だって頑張って作ったのに!」
「えっ、セリス!?」
ダッと走り出すセリスにロックは既視感を覚えた。慌てて手を伸ばし追いかけるも、意外と足が速いセリスの背中はあっという間に消えてしまった。ロックはぎぎぎ、と油を指していない機械のように首を動かし、セッツァーとエドガーを見遣る。二人の顔色は紙のように白かった。
「やべえぞこれ」
セッツァーが目の前の惨状を見て呟く。液状の何かの異臭がすごい。
「やべえって、な…なにが?」
「セリスは馬鹿じゃねえ。ただ逃げただけと思うか?」
思わない。ロックは首を横に振った。おそらく応援を仰いだのだ。セリスが自室に戻って泣き続ける、なんて可愛らしい性格をしているわけがなかった。エドガーがぼそ、と呟く。
「ティナとリルムを連れられたら私たち死ぬんじゃないか」
主に魔法攻撃でやられてしまう。リレイズなしに瀕死状態にさせられる。
室内の温度が一気に下がった。再び足音がこちらに向かってくる。最早逃げは許されない。ここは彼女たちの怒りを黙って受け止めようーーと考えていた三人に待ち受けていたのは、泣き続けるセリスと、今だかつて見たことがないくらい機嫌の悪いシャドウだった。
シャドウさんは寝ているところをセリスに叩き起こされ最初は無視してやろうと思っていたのにセリスは泣いてるし喧嘩の理由がクソくだらないことに苛立って機嫌が悪いだけです。さっさとこいつらを謝らせて二度寝決め込もうとしか考えてません。
「申し開きはあるか」
深い緑色の双眸がぎらりと光る。冷たい視線だ。それだけで人を一人殺せる程の鋭さを持っているだろう。睨まれた男たちは肩を強ばらせた。シャドウの後ろにしがみついて離れないのはセリスだ。普段は気丈な彼女は、どういうわけかえぐえぐと嗚咽を上げている。床にはぶちまけられたスープらしき液状の何か――セリスの作った料理だ。
死んだ魚のような目でロックが呟く。
「食べたくない、セリスの料理は、食べたくない」
「辞世の句は済んだようだな」
「いやいやいやちょっと待ってくれシャドウ話をしよう」
慌ててエドガーが両手を振って押しとどめる。シャドウの右手には鋭い刃が握られていた。影縫いだ。いつの間に抜いたんだ、とセッツァーが口角を引き攣らせる。
「違うんだ」
「何が」
シャドウは言葉数こそ少ないがたった一つの言葉だけで十分人を威圧できる。こんな具合に。
「私たちはレディを悲しませたかったわけではないのだよ。そう、ただーー言葉を間違えただけで」
「その結果悲しませているんだろう」
「しかし私たちに悪意は」
「悪意がなければ何言ってもいいのか」
「おっしゃる通りです」
ロックとセッツァーは同時に視線を合わせた。エドガーが負けた。口先の魔術師エドガーが。そもそも遠回りな話を嫌うシャドウにエドガーの話術は通用しない。すぐさま一刀両断され、結論を言えと脅されて終わりである。しかも今回はエドガーたちの方に分が悪かった。
事の始まりは今日の昼時。食事は基本的に当番制で、今日はセリスが当番に当てられていた。ここ最近彼女はめきめきと実力をつけて、以前は誰もが卒倒するほどの強烈な料理を作っていたが、少しずつ上達していた。ティナやリルム程ではないが、「あ、普通だ」程度にはなったのだ。
事実、今朝の朝食のスクランブルエッグは卵の殻も入ってなかったしベーコンも焦げていなかった。無論生焼けでもなかった。サラダは切ってよそうだけだが、それだって当初の彼女はやたらとレタスを細かくちぎったりきゅうりを一人一本ずつ出していたのだから十分上達したと言える。そしてさらにサラダにかけるソースはお手製の上にクソまずかったが、現在は既製品のマヨネーズを食卓に出している。
そんな彼女が今日は新メニューに挑戦した。そう、先程から妙な異臭を放っている、床にぶちまけられた液状の何かだ。これは先ほど、鍋の大きさに苦戦したセリスが躓き、鍋を落としてしまったからだ。そこまでは良い。「ごめんなさい、今日のお昼は各自外食してくれないかしら」とか言えばいい。野郎共もそれで納得してさらに「じゃあ俺たちも掃除手伝うよ」とか言っておけばいつもの仲良し風景が転がっていただろう。
しかしロックは口を滑らせ、セッツァーはそれに乗ってしまい、エドガーは、……偶然居合わせただけで完全にとばっちりだったが、確かに表情を引き攣らせていた。
「な、なんだコレ。すげえ変な臭いするけど」
「対魔物用毒物兵器か?」
「……ぜ、前衛的だね」
どもりながらもごめんなさい、と言おうとしたセリスに上からロック、セッツァー、エドガーの台詞だ。主に酷かったのはセッツァーだった。
普段なら顔を赤くしながらも全力で言い返していたセリスだったが、丁度その時は飛空艇から降りて戦闘をして帰ってきた時だった。疲れていたのだ。疲労困憊のセリスはらしくもなくその言葉を間に受けてしまい、うる、と瞳を潤ませた。
「なによなによ!私だって頑張って作ったのに!」
「えっ、セリス!?」
ダッと走り出すセリスにロックは既視感を覚えた。慌てて手を伸ばし追いかけるも、意外と足が速いセリスの背中はあっという間に消えてしまった。ロックはぎぎぎ、と油を指していない機械のように首を動かし、セッツァーとエドガーを見遣る。二人の顔色は紙のように白かった。
「やべえぞこれ」
セッツァーが目の前の惨状を見て呟く。液状の何かの異臭がすごい。
「やべえって、な…なにが?」
「セリスは馬鹿じゃねえ。ただ逃げただけと思うか?」
思わない。ロックは首を横に振った。おそらく応援を仰いだのだ。セリスが自室に戻って泣き続ける、なんて可愛らしい性格をしているわけがなかった。エドガーがぼそ、と呟く。
「ティナとリルムを連れられたら私たち死ぬんじゃないか」
主に魔法攻撃でやられてしまう。リレイズなしに瀕死状態にさせられる。
室内の温度が一気に下がった。再び足音がこちらに向かってくる。最早逃げは許されない。ここは彼女たちの怒りを黙って受け止めようーーと考えていた三人に待ち受けていたのは、泣き続けるセリスと、今だかつて見たことがないくらい機嫌の悪いシャドウだった。
シャドウさんは寝ているところをセリスに叩き起こされ最初は無視してやろうと思っていたのにセリスは泣いてるし喧嘩の理由がクソくだらないことに苛立って機嫌が悪いだけです。さっさとこいつらを謝らせて二度寝決め込もうとしか考えてません。
PR