酒
思わず一気に吸い込んでしまった煙草の煙に噎せると、ホル・ホースは目の端をヒクつかせ、それから意地の悪い笑みを浮かべながら煙草の先端を灰皿に押し付けた。
「わりーわりー、ガキがいたな」
ヒヒと笑い軽薄に言う。俺は思わずムッとして「ガキじゃあねえ!」と吠えるが、すぐにあまりに子供っぽい物言いだと気づいた。・・・小学校すらまともに通っていない身分でそんなことを考えても無駄な気がする。黙り込んで握りこんでいたグラスに目を落とした。
そのままビールを煽ると、帽子の上から何かが圧迫する。上目遣いに睨めつけると、予想した通りホル・ホースだった。無言で「なんだよ」と訴えると、それが伝わったのか伝わらなかったのか、ホル・ホースは俺の持つグラスを取り上げた。
「おい、」
「ガキの飲むもんじゃあねぇな」
「一応成人してんだよ、返せ」
「嘘つけ。オインゴおまえ、まだ18だろ」
エジプトの成人は21だろ。それともおまえはエジプト人じゃあねぇのか?と、ニヤニヤしながら言う。ぐぐ、と言葉に詰まる。・・・しかもエジプトは宗教上飲酒禁止だ。信心深いわけではないが、白昼堂々と飲酒すると確実に罰される。なのでこうして、態々館に持ち込んでひっそりビールを煽っているのだ。
「というわけで没収」
ホル・ホースはそう告げ、なんと!グラスに口をつけて一気に飲み干した!俺は椅子を蹴立てて立ち上がると思い切り怒鳴った。
「ふざけんなテメー!」
「あ?なんだよ、グラスに口つけたくらいで」
「そっちじゃあねえよ!」
年頃の女かよとぼやくホル・ホースの脛を思い切り蹴り上げる。うお、と低い悲鳴を上げる煙草臭いガンマンからグラスを取り上げ、あーあ、とため息混じりに声を漏らす。
「最後だったんだぜ」
買うの大変だってのに。倒れ伏すホル・ホースに非難がましく言うと、「脛を蹴らんでもいいだろーが」という弱々しい声が聞こえてきた。