香水
エドシャド(♀)。女体化(男装)&エンディングネタバレ注意
エドガーが立ち止まった。足音が減ったことに気づきセリスとセッツァーも立ち止まり振り返る。黒衣の暗殺者――シャドウの相棒であるインターセプターが、必死の形相でエドガーのマントを引っ張っている。主人であるはずのシャドウは、いない。
沈痛な表情を浮かべた若き王は、しかし覚悟を秘めた双眸でセッツァーを見つめた。
「・・・すまない、先に行っててくれ」
「先にって、おまえ!」
「危険よ!」
当然のように二人は却下したが、エドガーはまるで聞いていなかった。インターセプターが喉の奥で唸り声を上げる。怒っているようにも悲しんでいるようにも聞こえる鳴き声に、エドガーは踵を返して声を張り上げた。
「飛空艇の準備をしていてくれ!」
「おいっ!エドガー!!」
「セッツァー!」
「くそっ・・・行くぞセリス!」
セッツァーは長い銀髪を靡かせ、セリスの腕を引っ張った。急がなくてはならない。
■
長い脚が見えた。瓦礫と瓦礫の隙間に伸びる黒。岩を少し退けると、寝ているかのように横たわるアサシンがいた。腹に傷を負っているが、対した重傷ではないようだ。瓦礫が崩れ、パラパラと破片が散る。インターセプターはエドガーを見上げた。本当ならば、主人にのしかかってその安否を確かめたいだろうに、賢い老犬はそれをエドガーに譲った。
エドガーはゆっくりとシャドウの肩を抱き上げ、覆面越しの唇に耳を近づける。――微かな呼吸音が聞こえ、エドガーは安堵で息を吐くのと同時に、本当に微量だが、花の匂いがしたことに眉を顰めた。が、すぐにその考えを放り、シャドウを助け出すために抱え直す。
幸い、シャドウとエドガーには程々の身長差があった。軽々と横抱きをし、インターセプターを見下ろして一つ頷く。インターセプターもわかったと言うように、少し走って振り向く。出口の場所がわかるようだ。
走りながらエドガーは、同じ男にしてはあまりに軽い体重と、やはり香る花の匂いにある仮説を立て始めていた。
■
全員が飛空艇に乗り込んだ。いや、全員というには2人と1匹が足りない。セッツァーが焦れたように「まだかよあの馬鹿は!」と叫んだ。いつもは気丈なリルムが、不安を押し殺した表情でストラゴスの手を握った。
――その時、より一層瓦礫の塔が地響きを鳴らし崩壊した。塔の一角が大きく崩れたらしい。離れているとはいえ、いつまでもここに飛空艇を停めていると巻き込まれてしまう。駄目か、と誰かが呟いた瞬間、リルムが顔を上げ叫ぶように言った。
「インターセプターちゃん!」
「兄貴!それに、シャドウ!?」
横抱きでエドガーに運ばれるシャドウを見て、マッシュが慌てる。重傷を負っているようではないと気付くと少し気を和らげたが、しかしシャドウを見る視線は不安を募らせている。隣にいたガウが「シャドウ、けがか?」と首を傾げる。リルムはインターセプターに駆け寄り、それからエドガーを見上げて目を潤ませた。
「色男、大丈夫なの?」
「ああ。私もシャドウも無事だ。待たせてしまってすまない」
「早く治療してこい。船を出すぞ!全員掴まれ!」
セッツァーがぐい、と親指でエドガーに指示し、全員を見渡し舵を動かした。
■
エドガーはファルコンの客室に入ると、女性にするのと同じようにシャドウをベッドに寝かせた。インターセプターがベッドの脇に座る。腰のベルトや肩のパッドなど体を窮屈にさせるものを外していく。足の紐を解き、手袋を取る。薬指の指輪が光るが、それ以上にほっそりと白い指に表現し難い気持ちがせり上がった。
最後に些か躊躇ったが覆面を外すと、まず最初に長い睫毛を見た。その次に、化粧っけのない――しかしその必要がないと思える整った面立ち――『女性的な顔』があった。ライトブロンドの髪は、少し癖があり、オールバックにしているため普段は覆面に隠された面立ちが隅々まで見ることができる。
「女性、だったのか」
納得するように呟き、自分では治療はできないと、エドガーは思った。おそらく胸にも何か巻いているだろう。男の自分がそれをするわけにはいかない。エドガーはティナとセリス、そしてリルムを呼びに客室を出た。
インターセプターは労わるように、一つ吠えた。
エドガーが立ち止まった。足音が減ったことに気づきセリスとセッツァーも立ち止まり振り返る。黒衣の暗殺者――シャドウの相棒であるインターセプターが、必死の形相でエドガーのマントを引っ張っている。主人であるはずのシャドウは、いない。
沈痛な表情を浮かべた若き王は、しかし覚悟を秘めた双眸でセッツァーを見つめた。
「・・・すまない、先に行っててくれ」
「先にって、おまえ!」
「危険よ!」
当然のように二人は却下したが、エドガーはまるで聞いていなかった。インターセプターが喉の奥で唸り声を上げる。怒っているようにも悲しんでいるようにも聞こえる鳴き声に、エドガーは踵を返して声を張り上げた。
「飛空艇の準備をしていてくれ!」
「おいっ!エドガー!!」
「セッツァー!」
「くそっ・・・行くぞセリス!」
セッツァーは長い銀髪を靡かせ、セリスの腕を引っ張った。急がなくてはならない。
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長い脚が見えた。瓦礫と瓦礫の隙間に伸びる黒。岩を少し退けると、寝ているかのように横たわるアサシンがいた。腹に傷を負っているが、対した重傷ではないようだ。瓦礫が崩れ、パラパラと破片が散る。インターセプターはエドガーを見上げた。本当ならば、主人にのしかかってその安否を確かめたいだろうに、賢い老犬はそれをエドガーに譲った。
エドガーはゆっくりとシャドウの肩を抱き上げ、覆面越しの唇に耳を近づける。――微かな呼吸音が聞こえ、エドガーは安堵で息を吐くのと同時に、本当に微量だが、花の匂いがしたことに眉を顰めた。が、すぐにその考えを放り、シャドウを助け出すために抱え直す。
幸い、シャドウとエドガーには程々の身長差があった。軽々と横抱きをし、インターセプターを見下ろして一つ頷く。インターセプターもわかったと言うように、少し走って振り向く。出口の場所がわかるようだ。
走りながらエドガーは、同じ男にしてはあまりに軽い体重と、やはり香る花の匂いにある仮説を立て始めていた。
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全員が飛空艇に乗り込んだ。いや、全員というには2人と1匹が足りない。セッツァーが焦れたように「まだかよあの馬鹿は!」と叫んだ。いつもは気丈なリルムが、不安を押し殺した表情でストラゴスの手を握った。
――その時、より一層瓦礫の塔が地響きを鳴らし崩壊した。塔の一角が大きく崩れたらしい。離れているとはいえ、いつまでもここに飛空艇を停めていると巻き込まれてしまう。駄目か、と誰かが呟いた瞬間、リルムが顔を上げ叫ぶように言った。
「インターセプターちゃん!」
「兄貴!それに、シャドウ!?」
横抱きでエドガーに運ばれるシャドウを見て、マッシュが慌てる。重傷を負っているようではないと気付くと少し気を和らげたが、しかしシャドウを見る視線は不安を募らせている。隣にいたガウが「シャドウ、けがか?」と首を傾げる。リルムはインターセプターに駆け寄り、それからエドガーを見上げて目を潤ませた。
「色男、大丈夫なの?」
「ああ。私もシャドウも無事だ。待たせてしまってすまない」
「早く治療してこい。船を出すぞ!全員掴まれ!」
セッツァーがぐい、と親指でエドガーに指示し、全員を見渡し舵を動かした。
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エドガーはファルコンの客室に入ると、女性にするのと同じようにシャドウをベッドに寝かせた。インターセプターがベッドの脇に座る。腰のベルトや肩のパッドなど体を窮屈にさせるものを外していく。足の紐を解き、手袋を取る。薬指の指輪が光るが、それ以上にほっそりと白い指に表現し難い気持ちがせり上がった。
最後に些か躊躇ったが覆面を外すと、まず最初に長い睫毛を見た。その次に、化粧っけのない――しかしその必要がないと思える整った面立ち――『女性的な顔』があった。ライトブロンドの髪は、少し癖があり、オールバックにしているため普段は覆面に隠された面立ちが隅々まで見ることができる。
「女性、だったのか」
納得するように呟き、自分では治療はできないと、エドガーは思った。おそらく胸にも何か巻いているだろう。男の自分がそれをするわけにはいかない。エドガーはティナとセリス、そしてリルムを呼びに客室を出た。
インターセプターは労わるように、一つ吠えた。
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