飽く夢
おセンチなシャドウと夢枕に立つビリー&捏造シャドウ嫁
何もない。寒さで全身が粟立つ。クレパスのように底が見えない暗闇と、雨と土と鉄が混じった異臭が吐き気を催す。視界が悪いはずなのに、どういうわけか俺とソイツの姿だけははっきりと確認できた。それが無性に嫌な気分にさせる。うんざりした。と、同時に、そんな自分に嫌気がさした。
「嫌になった?」
品のない笑い声が脳を揺さぶる。軽い男だった。今日を生きられればそれでいい、明日のことは明日考えよう、欲しいものはいただこう、いらないなら売るか捨てよう。考え込む様子もなく、諦める時はすっぱりと諦めらる性格が羨ましかった。手段を選ばず、目的のために貪欲な性格が、少し憎かった。
手入れのされていない銀髪がひょこひょこと揺れる。その笑顔も、体全体を使う笑い方も、生前と変わらないはずなのに。
俺は、コイツを殺したいとさえ思っている。
「なあ××××」
捨てた名前を紡ぐ唇は、ゾッとするほど青く、乾燥でささくれ立っている。彼が腹を押さえていた両腕を離すと、肉が裂けた腹があった。血と一緒に腸が尾のように垂れている。先程までは無かった服から覗く肌は、沢山の生傷と青痣がある。
「お前が見捨てたから、こんな目に遭ったんだ」
中腰になって、よたよたと老人のように歩く彼を見るのが辛かったが、目を逸らすことができなかった。上目遣いにみる右目は、ポッカリと空洞になっているかのようにハイライトが無い。顔色は紙のように白い。
「お前のせいだ、××××」
「あなたと出会わなければよかった」
「そうでなければあんなところで死ななかったのに」
「ねえ××××」
「なあ」
聞き覚えのある女の声と彼の声が混じる。胸を差す言葉の刃が、ジワリジワリと俺を蝕む。弁解のしようもない。喉を詰まらせると、いつの間にかこんなに近くなっていたのか、彼は笑みを浮かべて俺の首を撫でた。ーーと、ありえない程の強さで首を絞められ、咄嗟に腕を離そうとするができない。息苦しさに身を捩るとーー
「ねぇ、××××」
ーー愛した女の声がした。教会のステンドグラスにあんなのがあったな、とどうでもいいことを思い出すくらい、女は神々しく輝いていた。女は慈しむような微笑みで、
「あなたのせいでリルムは一人なのよ」
冷酷に言い放った。
◆
目が覚めた。時計の針が秒を刻む音がひどく鮮明に聞こえる。浅く息を吐きながら時計を見ると、まだ夜明け前だった。インターセプターが労わるようにこちらを見上げる。
「・・・なんでもない」
首を横に振り、もう一度「なんでもない」と呟くように言った。汗で体がベタついて気持ち悪い。シャワーでも浴びようかと思いながら、ベッドを出た。
ああビリーよ!お前は本当に本当に、手段を選ばない男だ!
何もない。寒さで全身が粟立つ。クレパスのように底が見えない暗闇と、雨と土と鉄が混じった異臭が吐き気を催す。視界が悪いはずなのに、どういうわけか俺とソイツの姿だけははっきりと確認できた。それが無性に嫌な気分にさせる。うんざりした。と、同時に、そんな自分に嫌気がさした。
「嫌になった?」
品のない笑い声が脳を揺さぶる。軽い男だった。今日を生きられればそれでいい、明日のことは明日考えよう、欲しいものはいただこう、いらないなら売るか捨てよう。考え込む様子もなく、諦める時はすっぱりと諦めらる性格が羨ましかった。手段を選ばず、目的のために貪欲な性格が、少し憎かった。
手入れのされていない銀髪がひょこひょこと揺れる。その笑顔も、体全体を使う笑い方も、生前と変わらないはずなのに。
俺は、コイツを殺したいとさえ思っている。
「なあ××××」
捨てた名前を紡ぐ唇は、ゾッとするほど青く、乾燥でささくれ立っている。彼が腹を押さえていた両腕を離すと、肉が裂けた腹があった。血と一緒に腸が尾のように垂れている。先程までは無かった服から覗く肌は、沢山の生傷と青痣がある。
「お前が見捨てたから、こんな目に遭ったんだ」
中腰になって、よたよたと老人のように歩く彼を見るのが辛かったが、目を逸らすことができなかった。上目遣いにみる右目は、ポッカリと空洞になっているかのようにハイライトが無い。顔色は紙のように白い。
「お前のせいだ、××××」
「あなたと出会わなければよかった」
「そうでなければあんなところで死ななかったのに」
「ねえ××××」
「なあ」
聞き覚えのある女の声と彼の声が混じる。胸を差す言葉の刃が、ジワリジワリと俺を蝕む。弁解のしようもない。喉を詰まらせると、いつの間にかこんなに近くなっていたのか、彼は笑みを浮かべて俺の首を撫でた。ーーと、ありえない程の強さで首を絞められ、咄嗟に腕を離そうとするができない。息苦しさに身を捩るとーー
「ねぇ、××××」
ーー愛した女の声がした。教会のステンドグラスにあんなのがあったな、とどうでもいいことを思い出すくらい、女は神々しく輝いていた。女は慈しむような微笑みで、
「あなたのせいでリルムは一人なのよ」
冷酷に言い放った。
◆
目が覚めた。時計の針が秒を刻む音がひどく鮮明に聞こえる。浅く息を吐きながら時計を見ると、まだ夜明け前だった。インターセプターが労わるようにこちらを見上げる。
「・・・なんでもない」
首を横に振り、もう一度「なんでもない」と呟くように言った。汗で体がベタついて気持ち悪い。シャワーでも浴びようかと思いながら、ベッドを出た。
ああビリーよ!お前は本当に本当に、手段を選ばない男だ!
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