粘土
テレ+オイ。クヌム神は粘土から人間を作った創造神だそうです。オインゴが大きな手で器用に粘土こねくり回してたら可愛い。陶芸知識はほとんど無いので鵜呑みにしないでください。中途半端です
「意外ですね」
テレンスは整然と並べられた陶磁器を見渡した。太陽の光から遮断された薄闇の部屋内は、むせ返る程の土の匂いが漂っている。轆轤(ろくろ)を回し、その無骨で大きな手を小器用に動かし、丁寧すぎるほど綺麗な人形を作っている男――オインゴは、上目遣いにテレンスを一瞥した。が、すぐに視線を粘土に戻し、ボソボソと言った。
「DIO様が作れ、って言うから」
「その話は存じていますが・・・しかし貴方がこうも上手く作るとは思わなかったので」
馬鹿にしているようでもあり、感心したようでもあるテレンスの言葉に、オインゴは鼻で笑った。それから出来上がった土人形――どうやら羊のようだ。小さな角と目がどこか恨みがましい――をそのままに土で汚れた手をプラプラと動かして天井を仰いだ。テレンスはそこではじめて、オインゴがいつも深く被っている帽子を脱いでいることに気づいた。
「親父が陶芸家だったんだよ。対して稼ぎもせずに死んだけどな」
「・・・へえ」
少し意外そうに声を漏らす。これだけ丁寧に作れるなら売れそうなものだが。そんな疑問を孕んだ声色だった。オインゴは綺麗な雑巾で手を拭い、それからテーブルに置いていたらしい帽子を掴んで目深に被った。それから部屋から出ようと扉をスタスタと歩き始める。テレンスは、人がいると作業が捗らないタイプなのだろうか、と考えて少し納得した。いつも異常なほどべったりとくっついている弟のボインゴも部屋に入れていないのだ。適当な茶でも持ってくればよかったと、テレンスはほんのちょっぴり後悔した。
そもそもが、この部屋に来たのだってただの暇つぶしだったので申し訳ない気持ちが胸の内で膨らむ。無表情のまま悶々と考え込むテレンスに、扉に手をかけたままオインゴが言った。
「おい、お前が部屋に出ねーと鍵が閉めらんねーゼ」
「・・・あ、はい」
生返事で部屋を出たテレンスに小首を傾げつつも気にしない事にしたのか、オインゴは何も言わず部屋から出て、ズボンの右ポケットに手を突っ込んだ。ガチャガチャと音を立てながら沢山の鍵がついたキーホルダーを出し、躊躇いなく『O』と癖のある字で書かれた鍵で扉を施錠した。テレンスはその『O』の字をどこかで見たが、思い出せなかった。と、突然目前に錆びたキーホルダーが突き出され、テレンスは目を瞬かせた。
「っな、んですか」
「はァ?鍵が必要だから部屋に来たんじゃねーのかよ」
眉を顰め、口角を下げる。テレンスにはそういうつもりは全くなかったのだが、ここは彼に合わせるべきだろうと頷きながらキーホルダーを受け取る。どうにもいけない。ぼんやりしすぎている。そう思ったのはテレンスだけではなかったようで、オインゴは訝しげな表情を心配顔に変えて顔色を伺った。
「大丈夫か、執事さん。どうしたんだよ?」
「いえ、」
否定の言葉を吐き出そうとしたが、テレンスは「いや、待てよ?」と口を噤んだ。ここまで手先が器用なのだ、利用する手はない――そう思ったのだ。そうとなれば話は早く、テレンスは端正な面立ちに相応しき微笑を浮かべ(ここに彼の兄がいれば「悪寒がする」と言って館を出ていくだろう)言葉巧みにオインゴを部屋に入れた。事を影で見守っていた――とはまた違うのだろうが――ヴァニラ・アイスは「結婚詐欺でもしているのかと思った」と語る。
まんまと海の孤島のような部屋に押し込まれたオインゴは、物珍しげに辺りを見渡した。テレンスの部屋なんて早々入れるものではない。直属の部下を名乗る程館に出入りしているわけではないオインゴにとっては、幻覚の部屋というのは未知のものだった。勿論、普段あまり話さない人間の部屋だからというのもあるが。
白い砂浜。透き通るような海。絵具を塗りたくったかのような青い空。白い丸テーブルとシンプルだが洒落た椅子に腰をかけながら、しかし、『南国』というイメージとは不似合いな『ソレ』に、オインゴは興味を惹かれた。
「・・・これ、なんだ?」
いや、わからないわけではない。心の中で否定しつつ、オインゴは両開きのキャビネットをしげしげと見つめた。どこか浮世離れした空間で唯一の家具で、違和感の原因。無論、そこらに散らばったゲームソフトも十分違和感の原因であったが、しかしこの部屋はテレンスの『自室』ではなく『ゲーム専用自室』である。妙な生活感を醸し出すキャビネットが異様だった。下手に触らないほうがいい。とオインゴ自身は思ったが体は正直なもので、えいとばかりにキャビネットの扉を開けた――
「何してるんです?」
「なんでもねえッ!」
「意外ですね」
テレンスは整然と並べられた陶磁器を見渡した。太陽の光から遮断された薄闇の部屋内は、むせ返る程の土の匂いが漂っている。轆轤(ろくろ)を回し、その無骨で大きな手を小器用に動かし、丁寧すぎるほど綺麗な人形を作っている男――オインゴは、上目遣いにテレンスを一瞥した。が、すぐに視線を粘土に戻し、ボソボソと言った。
「DIO様が作れ、って言うから」
「その話は存じていますが・・・しかし貴方がこうも上手く作るとは思わなかったので」
馬鹿にしているようでもあり、感心したようでもあるテレンスの言葉に、オインゴは鼻で笑った。それから出来上がった土人形――どうやら羊のようだ。小さな角と目がどこか恨みがましい――をそのままに土で汚れた手をプラプラと動かして天井を仰いだ。テレンスはそこではじめて、オインゴがいつも深く被っている帽子を脱いでいることに気づいた。
「親父が陶芸家だったんだよ。対して稼ぎもせずに死んだけどな」
「・・・へえ」
少し意外そうに声を漏らす。これだけ丁寧に作れるなら売れそうなものだが。そんな疑問を孕んだ声色だった。オインゴは綺麗な雑巾で手を拭い、それからテーブルに置いていたらしい帽子を掴んで目深に被った。それから部屋から出ようと扉をスタスタと歩き始める。テレンスは、人がいると作業が捗らないタイプなのだろうか、と考えて少し納得した。いつも異常なほどべったりとくっついている弟のボインゴも部屋に入れていないのだ。適当な茶でも持ってくればよかったと、テレンスはほんのちょっぴり後悔した。
そもそもが、この部屋に来たのだってただの暇つぶしだったので申し訳ない気持ちが胸の内で膨らむ。無表情のまま悶々と考え込むテレンスに、扉に手をかけたままオインゴが言った。
「おい、お前が部屋に出ねーと鍵が閉めらんねーゼ」
「・・・あ、はい」
生返事で部屋を出たテレンスに小首を傾げつつも気にしない事にしたのか、オインゴは何も言わず部屋から出て、ズボンの右ポケットに手を突っ込んだ。ガチャガチャと音を立てながら沢山の鍵がついたキーホルダーを出し、躊躇いなく『O』と癖のある字で書かれた鍵で扉を施錠した。テレンスはその『O』の字をどこかで見たが、思い出せなかった。と、突然目前に錆びたキーホルダーが突き出され、テレンスは目を瞬かせた。
「っな、んですか」
「はァ?鍵が必要だから部屋に来たんじゃねーのかよ」
眉を顰め、口角を下げる。テレンスにはそういうつもりは全くなかったのだが、ここは彼に合わせるべきだろうと頷きながらキーホルダーを受け取る。どうにもいけない。ぼんやりしすぎている。そう思ったのはテレンスだけではなかったようで、オインゴは訝しげな表情を心配顔に変えて顔色を伺った。
「大丈夫か、執事さん。どうしたんだよ?」
「いえ、」
否定の言葉を吐き出そうとしたが、テレンスは「いや、待てよ?」と口を噤んだ。ここまで手先が器用なのだ、利用する手はない――そう思ったのだ。そうとなれば話は早く、テレンスは端正な面立ちに相応しき微笑を浮かべ(ここに彼の兄がいれば「悪寒がする」と言って館を出ていくだろう)言葉巧みにオインゴを部屋に入れた。事を影で見守っていた――とはまた違うのだろうが――ヴァニラ・アイスは「結婚詐欺でもしているのかと思った」と語る。
まんまと海の孤島のような部屋に押し込まれたオインゴは、物珍しげに辺りを見渡した。テレンスの部屋なんて早々入れるものではない。直属の部下を名乗る程館に出入りしているわけではないオインゴにとっては、幻覚の部屋というのは未知のものだった。勿論、普段あまり話さない人間の部屋だからというのもあるが。
白い砂浜。透き通るような海。絵具を塗りたくったかのような青い空。白い丸テーブルとシンプルだが洒落た椅子に腰をかけながら、しかし、『南国』というイメージとは不似合いな『ソレ』に、オインゴは興味を惹かれた。
「・・・これ、なんだ?」
いや、わからないわけではない。心の中で否定しつつ、オインゴは両開きのキャビネットをしげしげと見つめた。どこか浮世離れした空間で唯一の家具で、違和感の原因。無論、そこらに散らばったゲームソフトも十分違和感の原因であったが、しかしこの部屋はテレンスの『自室』ではなく『ゲーム専用自室』である。妙な生活感を醸し出すキャビネットが異様だった。下手に触らないほうがいい。とオインゴ自身は思ったが体は正直なもので、えいとばかりにキャビネットの扉を開けた――
「何してるんです?」
「なんでもねえッ!」
――が、すぐに閉めた。オインゴが振り向いて見ると、トレーに2人分の紅茶を乗せたテレンスが立っていたのだ。テレンスは訝しげにオインゴを見つめ返したが(オインゴにはそれが睨まれているように思えた)、やがて気にしない事にしたのかテーブルにトレーを置いた。
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