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香水4

あらすじ:リルムたんと和解(仮)をしたにょたシャドウ。今回はエドガーとお話したり色々。シャドウがとても饒舌になってしまったので注意。この話は本人の口で言わせないとって思ったらこうなったんです……。あと一話くらいで終わりにしたい所存

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すっかり泣き疲れて眠ってしまったリルムをベッドに寝かせ、入れ替わるように立ち上がる。ぱさり、と枯色の長髪が揺れ動く。普段は一本に纏め、見られないように服の間に隠していたのだが、脱出の際の衝撃か髪紐が解けてしまっていたらしい。シャドウはゆっくり息を吐いた。

酷く疲れた。胸の内側から溢れ出す後悔と、目の前で安らかに眠る娘に対する罪悪感がいまになって噴火する火山のように吹き出す。死ねば後のことは知ったことではない、とまではいかないが、それに似た感慨を持っていたシャドウは『生かされた』という事実を上手く受け止められずにいた。死ねばきっと楽になれただろうにと、未練がましく思う。

「…こんなものを持っている時点で、今更か」

薄らと笑う彼女の手に固く握り締められたそれは、薄緑色の液体が入った瓶――香水だった。それもほとんど使用していないのか、かなりの量が残っている。それなりに時間が経っているのか瓶の蓋の淵が汚れていたり、ラベルが変色しているが、中の液体には不思議と変化が見られなかった。

「……」

何度も捨ててしまおうと思った。婚約指輪だって家に置いていった。それだのに、シャドウはこの香水だけは捨てられなかったのだ。――同じように、家に置いて行けず持ち去った、もう動かない懐中時計には、写真を切り取ったらしい男性の顔が収まっている。

元々はこの香水も懐中時計も、私のものではなかったのに…。シャドウは重く息を吐いた。人間らしい感情を捨てたつもりだったが、自分はまだ人間だったらしい。

「旦那さんかい」
「…エドガー」

シャドウは心底困り果てたように、音もなく現れた男を見た。

「妬けるな、私の前で他の男をそんなに熱心に見つめるなんて」
「……やめてくれ、…知らなければお前は、俺にこんな態度を取らなかっただろう」
「でも知ってしまった」
「知られたくなかった」
「なぜ?リルムのことがあったからか?」

一瞬言葉に詰まったが、シャドウは弱々しく言った。

「…自分で言うのもなんだが、目立つ容姿をしているから…なるべく素顔は隠したかった。それに、男と思われていた方が都合がいい」

確かに彼女はそこそこの年齢を重ねているとは思えないほど美しい。日光を遮断するような格好をしていたため、肌は抜けるように白いし、色素の薄い枯色の長髪と、伏し目がちの控えめな表情は人形のように整っている。深緑色の双眸は暗い輝きを放っていた。

「他にもあるだろう」

シャドウの言い分に、エドガーは否と唱えた。

「他とは?」
「君は私に隠し事をしている」
「誰にだって秘密はある」
「そういう意味じゃない。わかっているだろう?」
「なんのことだかな」

ひらりひらりと問いを躱すシャドウに対して、エドガーは少しの苛立ちも見せず――むしろ終始穏やかな表情で――、未だ眠るリルムの頭を一度撫でて声を潜めた。

「わかった。とりあえずこの話は無しにしよう。あまり騒ぐと小さなレディが起きてしまう」
「……」
「…すまない、本当は傷の具合を聞きに来ただけなんだ。その、懐中時計のことをきくつもりは、なかった。はず、なんだが…」

言いつつも、エドガーはちらりとシャドウが手に持つ懐中時計と香水を見遣った。その視線に気づくと、シャドウは問わず語りにこう話し始めた。

「この懐中時計は、あの人が肌身離さず持っていたものだ。…あの人は村の猟師で、怪我だらけで村の近くに倒れていた私を助けた。怪我の具合が酷すぎて、死ぬつもりかと怒鳴られた。全くそのつもりはなかったのに、いつの間にかあの人と私は仲良くなっていた。気付けばプロポーズされ結婚式を挙げられその数ヵ月後には腹に赤ん坊までできていた」

顔を俯かせているため、表情は窺い知れないが、矢継ぎ早に話していることを見るに羞恥心であるらしい。

「最初、村の人間は私をあまり歓迎していなかったが、子供が出来たと聞くと同時に段々馴染んだ。リルムが生まれて、子育てをしながら普通の家族のような生活が続いた。…この私が、普通の家庭を築くなんて!」

シャドウはそこではじめて声を高く張り上げたが、すぐにヒソヒソと内緒話をするように、声のトーンを下げた。

「リルムが…3歳くらいの時か。あの人はいつものように村の若い衆と共に猟に行く事になった。あの人は出かける前に私に、いつ買ったのか、それとも貰い物なのかもわからない香水を渡して、『よかったら使ってくれ。こんな村じゃ、まともにお洒落もできないだろう』と言った。…柄でもないことをするものだな。薄々分かっていると思うが、あの人は生きて猟から帰ってこなかった」

それまでは声に抑揚があったのだが、少しずつ感情を伺わせない、淡々とした物言いに変わっていく。

「ストラゴスの爺さんが、死体は見ないほうがいいと言った。ひどかった。顔がずたずたに引き裂かれて、胸の下まで血塗れだった。この懐中時計も最初は血でひどい有様だったんだ」
「シャドウ……」
「…あまり深くは言えないが、その頃の私は少し精神を病んでいた。リルムとあの人のおかげで漸く落ち着いたのが逆戻りだ」

そこまで喋って、彼女は言葉を切った。エドガーはその後の展開がなんとなく読めたので、何も言わずシャドウを伺った。

「……だから…わからない…」

躊躇いがちに、一層小さな声で言う。

「リルムの言う『病気で死んだパパ』は、…誰だ?」
「え?」
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オインゴが嫁でシャドウが愛人です

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