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蝋の翼

シャドウの魔力が高いことがずっと気にかかってたんです。崩壊後。色々許せる方向け。多分続きます




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空を赤く染める太陽はなりを潜め、濃紺色が世界を仄暗く覆った。草木が風に煽られ、活動時間に入ったモンスター達が獲物を探しに双眼を光らせる。それは俺も同じで、鼻につく貴族を騙して殺すのは、モンスターの狩りと対して変わらない。俺に寄せられる仕事の依頼は、大抵が権力を振りかざす暴君や、その正反対に敵を作りやすい博愛主義者、はたまた貴族の間で起こった些細な闘争の主犯――殺すことに躊躇いはない。躊躇いを作ってはならない。痛めつけて殺してはならない、確実に首を取るのだ。

気付けばグラスを握る手に力が入っていた。カラ、と少し溶けた氷が音を立てて鳴る。酒の瓶は殆ど減っていなかった。呑む気が起きない。溜まっていた息を控えめに吐き出すと、それに気付いたインターセプターが尋ねるように俺の足元に近寄った。本当に賢い。その聡明さは彼女に似通った何かを感じさせ――いけない、彼女のことは忘れると誓ったのに。頭を振って誤魔化すように席を立った。手で合図を送ると、彼は少々不満そうに元の位置に――ベッドの脇に――戻っていった。

外の空気が吸いたい。そう思って、覆面をつけて扉の傍に近寄る。時計を見ると、丁度夜中の0時を回ったところだった。



甲板を出ると幸運にも美しい満月が雲の隙間から顔を覗かせていた。仕事の時ならばあまり嬉しくない。標的の姿がよく見えるのは良いのだが、その瞬間別の誰かに姿を見られる危険性がある。……まぁ、まず有り得ないが。そうならないように工夫して標的を騙す必要があるのだから、脅威に感じる必要はない。ない、のだが。

ビリ、と静電気のような音が耳元のすぐ近くで響いた。バリ、バリ、と今度はさらに大きな音。雷という程ではない、火花が散っている程度だ。黄色く発光した火の玉が溢れ出した。ティナの時は赤かったな、とどうでも良い事を考える。これも属性に関係するのだろうか。ティナは炎、セリスは氷、――セリスがもし『トランス』を使えるなら『青くなる』のだろうか?――…俺は、

足音が近づいてきた。瞬時に止めて空を仰ぐ。月は雲に隠れて何処かへ行ってしまった。木の扉が開く。革靴の音。革靴なら人物は限られてくる。板を踏み抜く重さからして男だ。エドガー、セッツァー、ロック、カイエンはどうだったか。マッシュは軽いサンダルのような靴を履いていた。名前は忘れてしまったが。興味が無かったのだろう。ゴゴはよくわからないし、ウーマロやモグ、それにガウはそもそも靴を履いていない。ストラゴスの爺さんもマッシュと同じように軽装だった。

振り向いて見てみると、飛空艇の持ち主、の友人のセッツァーがいた。どうりで軽い足音のはずだ。この男は上背の割に体重が軽い。

「こんな夜更けに月見か?」
「…関係ないだろう」

駄目だ、こんなこたえ方では怪しんでくれと言わんばかりだ。他に言い方があっただろうに、と自分の口下手さに歯噛みしながら目を細めて睨むと、セッツァーはニヤついた笑みを浮かべて肩をすくめた。何を考えているかわからない表情が――…あまり人のことを言えないが――苛立ちを加速させる。

「俺だって真夜中にこんな寒いトコいたくねえんだがな。灯りが見えたもんで」

覆面越しに口角が引きつった。今度からは気を付けよう。

「…そうか」
「なんか知らねえか?」
「さぁな。…モンスターか何かを見間違えたんじゃないか」
「モンスター、ねぇ…」

勘繰られている。間違いなく。この男は無駄に察しが良いから嫌いだ。些細な癖まで見破られてしまいそうだ。もしかしたら、既に見破られているかもしれない。世界一のギャンブラーと名乗るだけあってその観察眼は目を見張るものがある。ただのカードやダーツを対戦闘用の武器にしてしまうほどの手腕。敵と言っても良いくらいだ。ああ、詮索は嫌いだ。大嫌いだ。

「……もう戻る」
「そうか。…ところでシャドウ、お前、魔法でも使ったか?」

指先に小さく、電流が走る。

◼︎


帝国では魔導実験の他に人間と幻獣の融合実験が行われていた。然程大規模ではなく、小規模で行われたその実験の被検体には孤児が使われた。理由は簡単だ。身元が割れないからだ。縁者がいない孤児に何が起ころうと誰も騒がない。騒ぐはずがない。知らないのだから当然である。俺も孤児の一人であり、そして実験で唯一まともに人間の姿を保てていた。

他の子供たちは実験に耐え切れず(というより、幻獣の力に耐え切れなかったというべきか)死んでしまったり、成功しても自我を失くして暴れまわり、結局研究員に殺されてしまった。俺は偶然、融合した幻獣との相性がよく、人間の姿を保てた、らしい。

融合といっても本当に幻獣とパーツを組み合わせるわけではない。魔導注入の要領で、幻獣が本来持っている感覚ーー例えば嗅覚や聴覚といった五感などーーをそのまま人間に引き継げられないか。そういう内容だったようだ。これは後から調べたので確かではないが。

俺と幻獣の融合自体は成功したが、効果は一向に現れなかった。幻獣の絞りカスと何事もなくピンピンしている俺を見た研究員は一様に小首を傾げていたが、今ならわかる。俺の体はティナと同じようなものになっているに違いないと。

世界崩壊後、誰もいない獣々原の洞窟で、俺は十数年の時を越えて実験をーートランスを成功させてしまった。



「雷を自在に操るドラゴン?」

一つ一つ丁寧に、解き明かされていく。
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