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やりたくてやった

シャドウ×TOA。序盤だけ。なんかシャドウがショタってるので注意。シャドウ視点で書くのが久しぶりすぎてFF8の心の中だけおしゃべりな人みたいになってます


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シャドウが目覚めた原因は、間違いなくその圧倒的な寝心地の悪さと、服の違和感からだった。半ば寝ぼけ眼で上半身を起こし、辺りを見渡す。手入れのされていない伸びきった雑草や、太く根付く木々は見覚えのない場所だ。大木から伸びる枝に生えた、青々とした葉の合間からチラチラと見える空は赤く染まっている。朝焼けか夕焼けか、判断の難しいところだった。方向感覚すらも曖昧だったし、そもそもシャドウには状況把握ができていないのだ。

シャドウは暗殺者だ。人間を殺す事を職にしてからもう10年は経つ。それだけの期間があれば裏界隈では凄腕のアサシンだとか、親友すらも殺すほど冷徹だとか、あながち間違いでもない噂が流れた。それらに関してシャドウは、何も思わない。事実を否定する必要はない。彼は自分の実力に少なからず自信を持っていた。


そんな平和とは無縁とも言える彼は、どういうわけか世界を救うための戦いに身を投じることになった。それも、過去に捨てた娘(……)や10人以上にものぼる仲間たちと共に。少なからず彼は、柄にもない事をしたと考えている。


一時は死んだ身だ。それは、元相棒のビリーを見捨てて満身創痍で走り回り、サマサの村で『運悪く』死に損ねた時から持っていた考えだ。今でも夢に見る、己が殺し損ねて逃げたビリー。一歩間違えればシャドウだって死んでいた。彼はサマサでとある女性に拾われ、九死に一生を得たが(そして流れるようにその女性と恋仲になり娘ができたわけだが)、自分は一度死んでいるものだと、シャドウは思っている。


過去に後暗いことをしすぎたシャドウは、病に伏せった彼女や娘がビリーのように死ぬことを恐れて村を出た。それは彼女たちを捨てたも同然であり、シャドウ自身娘には捨てられたと思っていてほしかった。そうすれば父親のことはいなかったものとして処理してくれるに違いない。なんとも卑屈で暗い思考だった。


一度世界を崩壊させ、なおも世界を壊し続ける狂った男は打ち倒した。ならば。平和になった世界ならば、暗殺者はいらないだろう。俺のような人間は平和な世界にいらない。なにより、寄せ集めの塔に残れば瓦礫で潰され遺体は残らない。都合がいい。


そういうわけで、シャドウは後腐れなく死んだ。はずだった。


「……」


徐々に陽の光が落ちていく。どうやら夕焼けだったらしい。シャドウは重く息を吐いた。とどのつまりまた死に損ねたのだ。この生存力はもはや呪いとしか言えないが、その事を憂うよりも、シャドウには更に別の重大な問題が浮上している。


身につけた覚えのない砂色のコートは、上背の高い男性が着ればピッタリになるのだろう。シャドウの身長は180cmに近い。十分長身と言える。だが、今の彼には大きすぎて引きずってしまう。コートの下は忍び装束とは程遠い。白いシャツに(圧倒的に似合わない)、腰に巻かれた革ベルト。シャツと同色のズボンは若干裾が長いが合わないわけではない。何も無いよりマシである。靴がないため裸足だが、おそらく大丈夫だろう。


シャドウはゆっくりと、砂色のコートと白いシャツの袖から現れた『小さな手』を見た。身体が退行しているようだ。年齢までは正確にわからないが娘と同じ年頃だろうか。と、冷静に分析したところで、流石のシャドウも頭を抱えた。


(まさか装備も……)


武器が何もないのは非常に困る。どう見ても手ぶらな格好なので、防具に関しては期待しない方がいいだろう。咄嗟にコートのポケットを探ったのは、癖のようなものか。まだサマサで拾われる前、ビリーと共にしょうもないならず者をやっていた頃、同じようなコートを身に纏っていた。


硬い手触りをしっかりと握って引くと、細身に造られた短刀が現れる。『アサシンダガー』……シャドウも時々世話になっていたナイフだ。暗殺用に造られただけあって、時々モンスターに対して一撃死の能力を持っている。他にも風魔手裏剣が10枚ほどあったが、これに関しては数に限りがあるので滅多に使えないだろう。


とりあえずは路銀稼ぎ、それから現在地の把握、と思考を巡らせていたシャドウだったが、それ以前に今の自分の体についてもう少し考えるべきではないかと思い当たった。そこに行き着くが遅かったが、彼も彼なりに混乱していたので仕方ない。


(現地人でもいれば話は早いんだがな)


考えつつ、コートの一部をアサシンダガーで裂いて袋状にし、風魔手裏剣をいれる。紐はベルトが長かったので少し切り、それを細く裂いて袋を縛る紐にした。紐にしては硬すぎる気もするが、持ち合わせがないので仕方がない。コートを羽織り、ダガーを利き腕に装備する。


日が落ちるのが早い。暗くなる前に川でも探さなければ。立ち上がって辺りを見渡す。当てずっぽうに歩き回って行き倒れ、なんて無様を晒すわけにもいかない。とりあえず近くの木にダガーで傷をつけた。古典的な方法だが意外と馬鹿にできない。テントや寝袋はおろか、回復道具を一つも持っていないのだから手段は選んでいられなかった。


(体の退行、着た覚えのない衣服……実験?いや……帝国は既にないのだから可能性は低い。そもそも人体が簡単に変化してたまるか。ならば、召喚?憑依?)


次々と可能性を上げていく。時折木に傷を付け、耳を澄ます。一瞬、水の流れる音が聞こえて立ち止まる。神経を集中すると確かに細い水音が聞こえた。どうやら川があるらしい。もう日も暮れてきた。時々モンスターらしき影を見たため、早いところ体を休める場所を探さなければと考えていたのだ。運が良い。日が昇れば川を下れば海に出られる。海岸沿いから町を探せばいいだろう。その先のことはあとで考えればいい。


ふと、木々の隙間から点々と淡く発光する何かを見つけた。近くに町でもあるのか、と近づいてみるが、それもどうやら違うらしいことに気づく。淡く発光していたのは花だった。


(世界崩壊後は植物の成長が著しく低下していた。……ケフカを倒したことによる影響か?それにしたって、どうして花が光る。何か妙だ。それに)
「……おい」


誰だ、この男女は。


二人の男女が眠るように気絶していた。片方の青年は赤毛の長髪で、毛先にかけて色素が薄く金色になっている。手入れが行き届いているのは一目でわかるので、傷んでいるわけではないのだろう。白いコートは何故か腹回りが大きく開いており、あまり実用的とは言えない。ダボついた黒いパンツと靴は新品同様だ。生地も上質らしい。ジドールの人間だろうか。


もう片方の女性は飴色の長髪を持っており、前髪が片目を覆う程長い。ハイネックとなっている黒の生地に金のラインが入った服装は、何かの制服だろうか。長く伸びてワンピースのようになっているその服は、スリットが刻まれて三股に分かれている。セリスのレオタード(信じられないことにれっきとした軍服だという)の例があるので軍服かもしれない。おおよそ戦闘向きとは思えない踵の高い靴を履いている。


シャドウは眉根を寄せた。亜麻色の前髪を指でかき上げる。どちらもあまり頼りにはならなそうだ。二人とも武器らしき木刀と杖を持っているため戦闘経験はあるのだろうが、どうも現地人といった様子ではない。女性の方は杖を持っているところからして、帝国兵の生き残りか、魔導実験の関係者かもしれない。厄介この上ない。青年の方は言わずもがなだ。強盗団の血が騒ぐ。悪い意味で。


格好の割に金目のものを持っている様子はない。訝しげに思いつつも、このまま素通りする訳にもいかない。もう日が落ちてしまった。あたりは薄闇に包まれている。徐々に浮かぶ白い月と発光した花が幻想的だったが、シャドウには景色を眺めて物思いにふける趣味はなかった。


「おい、起きろ」


しかし不便である。声音は変声期を迎える前の少年そのもので、身長も然程高くないことは目線でわかる。それでもシャドウ自身の癖か、声を潜めるように、少年の本来高い声は低く警戒心を顕にしている。これがデフォルトなのだが、仲間になりたての頃「怒っているのか?」と尋ねられたことがあった。無論シャドウにそのつもりはない。


閑話休題。声にいち早く目覚めたのは女性の方だった。身じろぎをして瞼を開けるまでが早く、すぐさま目を見開いて警戒するようにシャドウから距離を取る。やはり戦闘慣れしているらしい。


「誰?」
「……さてな。それより、その男はお前の連れか?」


女性の問いを軽く流し、視線を赤毛の青年の方に帰ると彼女はハッと血相を変えた。


「ルーク!ごめんなさい、あなたは……」
「……そいつを起こした方がいいんじゃないか」


言って視線を逸らす。一瞬セリスに似ていると思ったが勘違いだったらしい。元常勝将軍と呼ばれていたあの女はここまで素直ではない。女性が何度か声をかけると、青年はやっと目を開けた。


「……お前」
「良かった……無事みたいね」


女性がほっと安堵の息を吐く。


「ここは……どこだ?」
「さあ……かなりの勢いで飛ばされたみたいだけど」
(飛ばされた?)


シャドウは女性の言葉に眉根を寄せた。青年の言葉といい、どこか不穏な空気が漂っている。続く女性の言葉にシャドウの眉間の縦皺は更に増えることになるのだが。


「プラネットストームに巻き込まれたのかと思ったくらい」
(なんだそれ)
「そうだ!お前、師匠を……あ?お前誰だ?」
(そしてこっちに来るのか)


青年が女性に敵意を顕にしたと思いきや、今度はシャドウと視線が合ってしまった。どうやら自分同様状況を理解していないらしい。これはいよいよ厄介事に巻き込まれたらしい、とシャドウは重く溜息を吐いた。

青年の一言に目を細めたシャドウだったが、直後にその青年が体の痛みを訴えたために有耶無耶になってしまった。女性が怪我の状態を訊くと、どこかバツが悪そうに青年は女性から距離を取る。


「私はティア。どうやら私とあなたの間で超振動が起きたようね」


ティア、と名乗った女性は、言葉の端々から刺々しい印象を持たせた。そんな彼女の言葉にルークが顔をしかめる。顔をしかめたいのはシャドウも同じだった。この短時間で聞きなれない単語のオンパレードだ。


「ちょうしんどう?なんだそりゃ?」
「同位体による共鳴現象よ。あなたも第七音譜術士(セブンスフォニマー)だったのね。迂闊だったわ。だから王家によって匿われていたのね」
「だーっうるせーっつーの!ちょっと黙れ!」
(セブンスフォニマー?……いや待て、王家と言ったかこの女)


この青年の粗野な言動に惑わされてしまうが、服は上質な生地だったし、その性別にも関わらず髪の毛先まで整えられている。だからジドールの貴族かと疑ったのだが、これはただの貴族ではなさそうだ。下手すれば首が飛ぶ。どこの国の人間だろうか、と容姿をまじまじと見てみるが、格好や奇妙な髪色を抜かせば小奇麗な面立ちの青年だ。少なくともフィガロの人間ではなさそうである。フィガロは金髪と青い瞳が特徴だったはずだからだ。事実、フィガロの現国王は金髪に青い瞳を持っていたし、その双子の弟も同じような色合いを持っていた。


青年のような赤毛は珍しい。その緑の瞳はシャドウも持っているが、光の具合によっては黒にも見える深緑色だ。それに比べて青年の瞳は薄い緑色で、時々青や黄色にも見える。ビー玉のような、と例えるのが正しいだろう。


シャドウは一度目を閉じ、眉間に指を当ててもう一度目を開いた。ぎゃあぎゃあ騒ぐ青年とそれを冷静に返すティアが見える。面倒だが、仕方がない。


「ティア、と言ったか」
「え?あ……あなた」


すっかりシャドウの存在を忘れていたらしい彼女は、声をかけられて目を見張った。それから少し腰をかがめてシャドウの肩に手を置く。一見ただの子供に見える彼を一応は気遣っているらしい。一方の青年はそれを見て面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「そういえば、あなたについて訊いていなかったわ。どこから来たの?」
「気付けばここにいた。もしかしたら、その超振動とやらに巻き込まれたのかもしれないと思ってな」
「……ああ?どういうことだ?お前、コイツにも何かしたのかよ!」


青年がキッとティアを睨みつける。しかしティアは動じない。シャドウの言葉にそう、と吐息のような声を出すと、かがめていた腰を完全に落とし、シャドウを見上げる形で視線を合わせた。透明度の高い氷のような瞳だった。


「あなたも、私が責任をもって元の場所に帰しましょう。住んでいた町の名前、わかる?」
(……さて、どうするか)


身体の退行。ここに至るまでの記憶の欠如。聞きなれない単語の数々。知っている国や人物に当てはめてこれまで思考を進めてはいたが、この場所、否この世界が自身の知っているものとは違うと理解していた。それゆえに説明が難しい。馬鹿正直に話すわけにもいかない。


そこでシャドウは『設定』を作ることにした。


「俺の名はシャドウ。……お前は」
「俺か?俺はルーク。ルーク・フォン・ファブレ」


ティアの問いには答えず、青年・ルークに視線を移すと、彼は意外にも素直に名前を名乗った。それもミドルネームからファミリーネームまでしっかりと。フィガロの王は最初エドガーとしか名乗らなかった。身分はその後、仲間たちの会話を偶然聞いていて知ったくらいだ。おそらくティナやセリスと同年代くらいであろうルークは、圧倒的に警戒心が足りていない。


(フォン……ジドールの貴族にもいたな……世界観が違ってもそういうところは同じなのか)


やはり貴族説は濃厚らしい。シャドウは一度顎を引いた。それから視線を落としてティアの方を向く。


「出身地はわからない。親兄弟もいない」
「え?そ、それじゃあ、」
「ルークと同じように、俺も世間に疎い。説明してくれると、ありがたい」


出身もわからず家族もいないと聞いて困惑するティアを遮り、これまで思っていたことを言葉に出す。ちなみに出身地は事実シャドウ自身知らないし、親兄弟の存在も認知していないのでいないも同然だ。現在の外見的にも女性であるティアの同情を誘うことは容易だろう。勝手に想像して勝手に哀れんでくればいいが。


 

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