変身能力
中途半端なホルオイ未満。書いた本人がこの先の展開を忘れてるので続きはない
美しい夜景が見渡せる、品の良い高級レストラン。パリッとした正装に身を包む30代半ばの美丈夫は、向かいに座るあどけなさの残る女を見て微笑んだ。女はほのかに頬を赤くさせ、自分の顔色を悟られぬようにワイングラスを手にとった。それをみて男も、ワイングラスをとって、僅かに掲げる。中に入った赤ワインが揺れた。
「君の瞳に乾杯・・・なんて、ありきたりかな?」
「ふふ・・・そういうの、嫌いじゃあないわ」
ハンフリー・ボガートを気取った男が首を傾げて苦笑混じりに言うと、女は首を横に振ってクスクス笑った。
――男の名はホルホース。ほのかに香る煙草の匂いと、とろけそうな青い瞳。後ろに流して束ねられたプラチナブロンドの頭髪。高い鼻と割れた顎、日に焼け過ぎない、けれど健康的な肌。180センチ前後のがっしりとした体格。今は腰をかけているが、立ち上がれば長い脚が現れる。年齢は30代も半ばに差し掛かっているため若々しい雰囲気はないが、それが逆に彼の『大人の男性』という魅力を引き立てていた。
ホルホースの目の前にいる女は、まだ18歳。瑞々しい肌と艶のかかったダークブラウンの長髪。ほのかに赤い頬と筋の通った鼻、ゼリーのように透明感のある唇と、長い睫毛に縁どられた双眸は若緑に染まっている。暗い赤色のシンプルなドレスに身を包む女は、あどけなさこそ残るが『女の体』だ。胸元を押し上げる胸と、きゅっと締まった腰に、安産型の尻は、世の男の視線を捉えて離さないだろう。美女という言葉がよく似合っている。
――女は笑いの余韻を残したまま、誰にも悟られないように眼光を鋭くしてホルホースを射抜いた。ホルホースはすぐに気づき、困ったように眉を寄せて謝罪するように右手でジェスチャーする。
「・・・どうして俺が女の真似事なんか」
「もーちょっと、もーちょっとだけ我慢してくれ、オインゴ」
女、否変身したオインゴが小さく呟くと、ホルホースは声を潜ませて言った。
■
――DIOが死んで数ヶ月の月日が経った。なんとか生存できたDIOの元配下たちは、SPW財団と契約を結び、元の日常に帰っていった。財団の監視はないが、契約の名目上、SPW財団に勤務しているということになっているホルホースは、財団があまり手を出せない任務をこなしている。簡単な話暗殺だとか、手の出しにくい相手の情報収集など、危険なものが多かったが、元々ホルホースはそれを生業としていたので特に苦はなかった。
だが、最初はさほど難しくなかった任務は、段々困難になった。ホルホースはどちらかといえば二人でペアを組み、相棒のサポートを得意とするタイプだ。単独行動は苦手なのである。一番相性が良く、長い間コンビを組んでいたJ・ガイルは死んでしまったし、現在コンビを組んでいるSPW財団の社員も――スタンド使いではないが手腕は中々だ――アシストを『する方』なので相性はあまり良くなかった。
そんなある日、月に一度の現状報告の際、ホルホースは敵対した一行の一人であるジョセフ・ジョースターと面会した。向こうから訳も分からず呼ばれたので、ホルホースはもしかして『用無し』になるんじゃあないかと戦戦恐恐とした。
白い壁に部屋を二分にするガラス窓。両の掌がギリギリ入る程度の穴が空いている。書類を入れるためのものだ。白いテーブルとパイプ椅子が唯一の家具だ。まるで刑務所の面会室のようだったが、もう慣れたので何も言わずに老人を見据える。足を組み、椅子を浮かせるという下品な態度だったが、ジョースターはそれを咎めなかった。
「・・・で、何の用だ」
偉そうな物言いだったが、ホルホースは内心『クビだったらこれからどうしようかなぁ~』と思っていた。無論、脳内で書き留めていた女の子リストを捲るのも忘れない。ジュリエッタとははっきりと別れを告げてしまったし、メアリーは向こうから振られてしまったから、この辺で一番近い場所に家があるのはアリッサか・・・。けれどアリッサは最近婚約者が出来たというのですぐには泊めてもらえないかもしれない、やばいぞ、新しく女作ろうかな――。
ホルホースが悶々と考えていると、ジョースターは顰めていた表情をふ、と綻ばせ、それからカラカラと笑い声を響かせながらパイプ椅子に腰を下ろして唖然とするホルホースに言った。
「どうやら、お前さんは相性のいいスタンド使いじゃないと力を発揮できんらしいからな。とあるスタンド使いとコンビを組んで貰おうと思ったんじゃよ」
「なっ・・・アンタなぁッ!確かに俺は財団のために働いてるけど、味方になったわけじゃあないんだぜッ!?なんだってそこまでしてくれるんだよ」
言いながら深く息を吐いて肘をパイプ椅子にかける。財団の社員との相性は微妙だが、任務を失敗したことはない。少々手こずるが形容範囲である。ホルホースを監視する側であるジョースターが気にすることではない。
ジョースターは髭に覆われた口元を笑みで歪ませて言った。
「お前のためもあるが、奴のためでもあるんじゃ。多分会ったことがあるじゃろう、仲良くするんじゃよ」
「お、おい爺!」
ジョースターはホルホースの制止も聞かず部屋を出て行った。暫し呆然としていたホルホースだったが、扉の向こうからジョースターの声と駆け寄ってくる足音が聞こえてきて「例のスタンド使いか」と気を引き締める。多分会ったことがある相手で、今も生存しているスタンド使い――心当たりは複数あったが、目星はつけられなかった。
話し声が聞こえる。何を言っているかはわからなかったが、声からして男だとわかり、ホルホースは少なからず落胆した。公私混同は良くない事だし、女性が一緒だと面倒なことも多いがやはり女性が隣に立っているだけで気分が高ぶる。下心を押さえつけていると、ノックの音が聞こえてきた。
「どーぞ」
投げやりに返事をすると、ホルホースは扉からぬっと現れた長身の男に目を剥いた。
「オインゴ、お前か!」
「・・・あぁ」
しかめっ面で頷く姿は、若いからか爆発で出来た傷はほとんど消えている。彼の名前が書かれた赤いシャツと白いコートも変わりない。ただ、いつもは足元に引っ付いて控えめにこちらを伺うボインゴの姿が無いのが、ホルホースは違和感を感じた。
厚ぼったい唇をきゅっと引き締め、眉間には深い皺が刻まれている。釣り上がった瞳は好戦的だ。――ホルホースは心の中で苦笑いをした。オインゴがホルホースに対して明確な敵意を向けているのは、弟のボインゴを勝手に連れ出した事が原因だろう。口には出さないが『許さないぞ』という思いが見て取れる。
「これからお前が俺の相棒か。ま、よろしくな」
取り敢えず仲良くしておこう、とホルホースが友好的に接すると、オインゴは暫く黙りこくっていたが、やがて「・・・・・・よろしく」とボソボソ返事を返した。
美しい夜景が見渡せる、品の良い高級レストラン。パリッとした正装に身を包む30代半ばの美丈夫は、向かいに座るあどけなさの残る女を見て微笑んだ。女はほのかに頬を赤くさせ、自分の顔色を悟られぬようにワイングラスを手にとった。それをみて男も、ワイングラスをとって、僅かに掲げる。中に入った赤ワインが揺れた。
「君の瞳に乾杯・・・なんて、ありきたりかな?」
「ふふ・・・そういうの、嫌いじゃあないわ」
ハンフリー・ボガートを気取った男が首を傾げて苦笑混じりに言うと、女は首を横に振ってクスクス笑った。
――男の名はホルホース。ほのかに香る煙草の匂いと、とろけそうな青い瞳。後ろに流して束ねられたプラチナブロンドの頭髪。高い鼻と割れた顎、日に焼け過ぎない、けれど健康的な肌。180センチ前後のがっしりとした体格。今は腰をかけているが、立ち上がれば長い脚が現れる。年齢は30代も半ばに差し掛かっているため若々しい雰囲気はないが、それが逆に彼の『大人の男性』という魅力を引き立てていた。
ホルホースの目の前にいる女は、まだ18歳。瑞々しい肌と艶のかかったダークブラウンの長髪。ほのかに赤い頬と筋の通った鼻、ゼリーのように透明感のある唇と、長い睫毛に縁どられた双眸は若緑に染まっている。暗い赤色のシンプルなドレスに身を包む女は、あどけなさこそ残るが『女の体』だ。胸元を押し上げる胸と、きゅっと締まった腰に、安産型の尻は、世の男の視線を捉えて離さないだろう。美女という言葉がよく似合っている。
――女は笑いの余韻を残したまま、誰にも悟られないように眼光を鋭くしてホルホースを射抜いた。ホルホースはすぐに気づき、困ったように眉を寄せて謝罪するように右手でジェスチャーする。
「・・・どうして俺が女の真似事なんか」
「もーちょっと、もーちょっとだけ我慢してくれ、オインゴ」
女、否変身したオインゴが小さく呟くと、ホルホースは声を潜ませて言った。
■
――DIOが死んで数ヶ月の月日が経った。なんとか生存できたDIOの元配下たちは、SPW財団と契約を結び、元の日常に帰っていった。財団の監視はないが、契約の名目上、SPW財団に勤務しているということになっているホルホースは、財団があまり手を出せない任務をこなしている。簡単な話暗殺だとか、手の出しにくい相手の情報収集など、危険なものが多かったが、元々ホルホースはそれを生業としていたので特に苦はなかった。
だが、最初はさほど難しくなかった任務は、段々困難になった。ホルホースはどちらかといえば二人でペアを組み、相棒のサポートを得意とするタイプだ。単独行動は苦手なのである。一番相性が良く、長い間コンビを組んでいたJ・ガイルは死んでしまったし、現在コンビを組んでいるSPW財団の社員も――スタンド使いではないが手腕は中々だ――アシストを『する方』なので相性はあまり良くなかった。
そんなある日、月に一度の現状報告の際、ホルホースは敵対した一行の一人であるジョセフ・ジョースターと面会した。向こうから訳も分からず呼ばれたので、ホルホースはもしかして『用無し』になるんじゃあないかと戦戦恐恐とした。
白い壁に部屋を二分にするガラス窓。両の掌がギリギリ入る程度の穴が空いている。書類を入れるためのものだ。白いテーブルとパイプ椅子が唯一の家具だ。まるで刑務所の面会室のようだったが、もう慣れたので何も言わずに老人を見据える。足を組み、椅子を浮かせるという下品な態度だったが、ジョースターはそれを咎めなかった。
「・・・で、何の用だ」
偉そうな物言いだったが、ホルホースは内心『クビだったらこれからどうしようかなぁ~』と思っていた。無論、脳内で書き留めていた女の子リストを捲るのも忘れない。ジュリエッタとははっきりと別れを告げてしまったし、メアリーは向こうから振られてしまったから、この辺で一番近い場所に家があるのはアリッサか・・・。けれどアリッサは最近婚約者が出来たというのですぐには泊めてもらえないかもしれない、やばいぞ、新しく女作ろうかな――。
ホルホースが悶々と考えていると、ジョースターは顰めていた表情をふ、と綻ばせ、それからカラカラと笑い声を響かせながらパイプ椅子に腰を下ろして唖然とするホルホースに言った。
「どうやら、お前さんは相性のいいスタンド使いじゃないと力を発揮できんらしいからな。とあるスタンド使いとコンビを組んで貰おうと思ったんじゃよ」
「なっ・・・アンタなぁッ!確かに俺は財団のために働いてるけど、味方になったわけじゃあないんだぜッ!?なんだってそこまでしてくれるんだよ」
言いながら深く息を吐いて肘をパイプ椅子にかける。財団の社員との相性は微妙だが、任務を失敗したことはない。少々手こずるが形容範囲である。ホルホースを監視する側であるジョースターが気にすることではない。
ジョースターは髭に覆われた口元を笑みで歪ませて言った。
「お前のためもあるが、奴のためでもあるんじゃ。多分会ったことがあるじゃろう、仲良くするんじゃよ」
「お、おい爺!」
ジョースターはホルホースの制止も聞かず部屋を出て行った。暫し呆然としていたホルホースだったが、扉の向こうからジョースターの声と駆け寄ってくる足音が聞こえてきて「例のスタンド使いか」と気を引き締める。多分会ったことがある相手で、今も生存しているスタンド使い――心当たりは複数あったが、目星はつけられなかった。
話し声が聞こえる。何を言っているかはわからなかったが、声からして男だとわかり、ホルホースは少なからず落胆した。公私混同は良くない事だし、女性が一緒だと面倒なことも多いがやはり女性が隣に立っているだけで気分が高ぶる。下心を押さえつけていると、ノックの音が聞こえてきた。
「どーぞ」
投げやりに返事をすると、ホルホースは扉からぬっと現れた長身の男に目を剥いた。
「オインゴ、お前か!」
「・・・あぁ」
しかめっ面で頷く姿は、若いからか爆発で出来た傷はほとんど消えている。彼の名前が書かれた赤いシャツと白いコートも変わりない。ただ、いつもは足元に引っ付いて控えめにこちらを伺うボインゴの姿が無いのが、ホルホースは違和感を感じた。
厚ぼったい唇をきゅっと引き締め、眉間には深い皺が刻まれている。釣り上がった瞳は好戦的だ。――ホルホースは心の中で苦笑いをした。オインゴがホルホースに対して明確な敵意を向けているのは、弟のボインゴを勝手に連れ出した事が原因だろう。口には出さないが『許さないぞ』という思いが見て取れる。
「これからお前が俺の相棒か。ま、よろしくな」
取り敢えず仲良くしておこう、とホルホースが友好的に接すると、オインゴは暫く黙りこくっていたが、やがて「・・・・・・よろしく」とボソボソ返事を返した。
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