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お盆

7.スタ注意。サ.クリファ.イスEDの普通男(デ.ィープ.パー.プル主)ともうすぐ三十路花京院の話。多分4部途中
ぴくしぶにも載せてみた

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「花京院、ゲームやろうぜ」

いつの日か見た、少し影の入った笑みを浮かべてそう言い放った。



承太郎と共にこの杜王町を訪れて、数ヵ月が経った。既に夏も終わりに近づいているのに、厳しい残暑は僕の精神を削るばかりだ。杜王町は東北地方であるが、今日も今日とて天気予報では30度近い気温らしく、登校途中らしい仗助くん達が暑さにダレているのを見かけた。

杜王町を脅かす殺人鬼、吉良吉影――スタンド使いでもあるらしいその男の調査に来たはずだが、ここまで情報が出てこないとなると少し参ってしまう。無論、諦めるつもりはない。つもりはないが…。

僕はホテルに備え付けられた時計を見上げた。パソコンから放たれる光が目に痛い。目を細め、やっとのことで時計を見ると、針は夜中の2時を指していた。いい加減、休息を取ったほうが良いかもしれない。肩を回すと、コキコキと軽快な音が二三度鳴った。パソコンの電源を落とし、部屋の電気を点ける。夕方はじめてからそのまま集中していたらしく、部屋は真っ暗だった。

備え付けの簡易キッチンに立ち、湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れた。味はよくわからない。ただのお湯のようにも感じるが、匂いは確かにコーヒーである。面倒くさがらずに最初から淹れればいいのだ…。しかしどうにもそんな気分は起きなかった。何故だろうか。

寝室には向かわず、三人がけのソファーに座った。やはりこの部屋は僕一人には多い。ジョースターさんの好意に甘えて杜王グランドホテルに宿をとっているが、こうも設備が整いすぎていると居たたまれない。承太郎と同じ部屋でもいいのに、と思うのは、…僕が一般家庭の生まれだからだろう。『あの旅』の時だって、よっぽどのことがない限り、ホテルに泊まる際は一人一部屋与えられた。

ソファーに座って、うつらうつらと船を漕いでいるのに気付いた。寝るならベッドで寝なければ、と思いつつ、体は動いてくれない。もうこのまま寝てもいいか、と思ったとき、『何者かが動く音』がした。

「誰だ!?」

バッと立ち上がり、体の横に法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)を発現させる。眠気はすっかり失せてしまった。法皇の緑の触手を辺りに這わせてみるが、特に何かがいるわけでもないようだ。僕は首を傾げた。確かに誰かいるように感じたが…。

「ここだぜ、花京院」
「!」

ふっ、と耳元に息を吹きかけられ、後ろを振り向く。僕は一瞬、それが幻覚の類だと思った。――くすんだ赤毛に、キュッと釣り上がった鳶色の瞳、挑戦的な笑みと、あの頃の承太郎とは違い装飾の施されていないごく普通の制服。僕より少し低い背丈は、どう見ても『あの旅で死んだはずの煙崎だった』。僕が驚愕に声も出せずにいると、煙崎は頬を引きつらせるようにして笑った。彼の癖だ。

「久しぶり」

そう言って、あの頃となんら変わりない姿で声をかけてくる。僕は眉根を寄せた。

「本当に、煙崎なのか?」
「…ま、面倒だけど、説明くらいはしてやった方がいいか」

肩をすくめる姿は、生前と変わりない。何も、少しも変わりない、懐かしい気配がする。これが敵スタンドの能力だとしたら――そんな可能性を捨てたわけではない、むしろそれが濃厚だと思いつつも、もしかしたら煙崎が生きていて、僕に顔を見せに来てくれたのかもしれない――そう考えると、『本当にそうなのか』と伺わずにはいられなかった。

「ホントはさ、先にポルナレフのトコへ行く予定だったんだけど、アイツの家遠くて面倒でさ。なんだかんだ、お前は最後まで俺のこと気にかけてくれてたから。面倒くさかったけど、こうして会いに来てやったってわけ」
「……?どういう、ことだ?」

『先にポルナレフのトコへ行く予定だった』?『俺のこと気にかけてくれてたから。』…確かに彼が死んだと聞いたときは、一番混乱していたかもしれない。いや、全員混乱していたんだ。何も言わず全てを終わらせていった煙崎が、何を思って死んでいったのか、わからなかったから。

「あほ」

しかしそんな僕の困惑を煙崎は一言で蹴った。

「あ、あほとはなんだあほとは!」
「小難しいこと考えてんなよ。ようはアレだ、里帰りってやつ」
「里帰り……?」
「おふくろや親父のトコ行くの、なんか面倒で」
「それは…一番面倒くさがっちゃいけないんじゃないかな…」

そうかァ?と首をかしげる。軽い口ぶりと、面倒くさがるこの性格。どう考えても煙崎だ。…今のところは警戒を解いても良いのかもしれない。法皇の緑は戻さないが。

「それで、煙崎は何をしに来たんだ?」

もしかしたらこのまま襲いかかられるのかもしれない。思いつつも、いつもの調子で問いかける。煙崎は言った。

「花京院、ゲームやろうぜ」



テレビ画面には懐かしいスタートメニューが映されている。『F-MEGA mini』…幾度とプレイしたことがあるこのゲームを、煙崎もやったことがあったらしく(そういえば彼の家にお邪魔したとき、彼の部屋にゲーム機があった)コントローラーをもって難易度を選択している。

「このゲームをするのは久しぶりだから、負けるかもしれないな」
「そんときは、俺の墓にコピ供えろよ」
「…気に入ってたのかい?」
「まあ、そこそこ」

軽口を叩く。難易度は一番難しいものを選んだらしい。2Pコントローラーを持ち、スタートダッシュに備えてボタンを押す。もう少しで始まる――というところで、僕は煙崎に言った。

「僕が勝ったら、君のご両親と僕以外の仲間にも挨拶に行けよ」
「えっ」

煙崎はスタートダッシュに遅れた。



「ずるい、卑怯、絶対俺勝ってたのに」
「未練がましいぞ煙崎。約束通りちゃんと挨拶回り、行くんだな」

僕が言うと、煙崎は頬を膨らませた。若くないと許されない仕草に、年月の差を感じる。ふと気になって僕は尋ねた。

「なあ煙崎、君は――」

所謂幽霊ってやつなのか?そう訊くつもりだったのだが、彼は今まで見たことのない表情で――表現するなら、儚げってやつなのだろうが、どうにも彼には不似合いな表情だった――黙って頭を振った。

「そろそろ行くよ。遊んでくれてありがとうな、花京院」
「え――おい、煙崎!」

部屋いっぱいに毒々しい色合いのガスが溢れ出す。目に入ると嫌な刺激を感じ、たまらず目を瞑ってガスが収まるのを待っていると、不気味なほどの静寂が部屋を満たしているのに気付いた。時計の針耳に響く。ガスは少しもない。時計は最後に見たときと同じく、午前の2時を指している。慌てて自分の腕時計を確かめると、やはり午前の2時だ。

夢でも見ていたのだろうか…。そもそもホテルにはゲーム機もF-MEGAのソフトも持ち込んでいない。おそらく夢だったのだろう。それもひどく、懐かしい夢だった。何も変わらなかった。変わるはずがない。死者は成長しないのだから。変わったのは僕の方だ…。


後日、承太郎とジョースターさんも煙崎の夢を見たと言ったとき、やはり夢ではなかったのだ、そう漠然と思った。
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