心霊調査団
ネーミングセンスェ……悪霊シリーズとのクロスオーバー。ビリーとクライドだけ
その依頼が舞い込んできたのは正に奇跡としか言い様がなかった。今月は未だ一件も依頼が来なかったので、家賃を払えるか払えないかの瀬戸際だったのだ。いざとなれば俺のバイト分と貯金を合わせればなんとかなるが、それは最終手段にしたかった。俺は嬉々として依頼内容と場所、時間を訊き、報酬金額の話をして電話を切った。成功すればそこそこ金が入る。やったぜ。
俺の名前はビリー。名字はない、が、人にきかれたら「レノックス」と名乗っている。名前の通り日本人ではない。育ちはイギリスで、年齢は今年で23歳。まだまだ若いが彼女はいない。全力で募集中だ。それから、俺の相棒のクライド。無駄に美形なもんで女にモテるが、こいつも彼女はいない。俺たちは少し不思議な仕事をしている。所謂「拝み屋」ってやつ?ううん、ちょっと違うかな。
だって俺もクライドも、祈祷をしたり、占いをしたり、シャーマン……えーと、口寄せだっけ。あと悪魔祓いとか、そういうのをしたりしないからだ。一応「心霊調査」って名目で店を出している。特に売るものはないけどね。俺たちは依頼を受けてそれが本当に怪異あるいは心霊現象なのかを調べ、場合によっては除霊する仕事をしている。調べるって言ったってたいしたことはしない。本当は専門的な機材を揃えたいが、そんな金ないし。
じゃあどうやって調べるのかっていうと、簡単な話。俺の相棒のクライドは、霊感が人一倍強く、霊を目視したり、触ったり霊と話したりすることができるのだ。当然建物に入ればどんな霊がいるのかもある程度わかる。少し前からテレビで話題になっている霊媒少女「原真沙子」も霊媒師で霊の気配を察知できるが、クライドは全くその子と同じ能力を持っているのだ。ああ、もちろん全て完璧に同じってわけではない。クライドは自力で除霊できるし霊媒体質でもない。視えるだけである。むしろ、霊媒体質なのは俺だ。
とても不本意なのだが、俺は霊感なんて少しもない。視えない、聞こえない、触れない、話せない。どんなに強い霊でも見えない。鈍感ってレベルじゃないほどで、クライドに言わせりゃ「零感」らしい。
……なのだが、どういうわけか俺は霊に好かれやすいらしく、心霊現象に巻き込まれるたびに霊に攫われたり憑依されたりするのだ。いかんせん視えないために霊にたいして無防備なせいもあるが、お祓いしてもらったり護符を持ったり盛り塩しても効かないのは本当に勘弁してほしい。そのせいで幾度となく死にかけた。
そんな霊媒体質な俺が突然姿を消せばほぼ100%心霊現象だ。便利な餌役というわけで調査の際は必ず同行することになっている。正直生死の分かれ目に立たされるのは嫌すぎるのだが、心霊現象ではない場合のお手伝いが最低一人は必要だし、あいつは色々言いつつも俺を助けてくれるので、断ることができないのだった。
たとえば建物内で発生するラップ音。霊が現れたときに起こる現象とされるが、これが霊が全くいない状態で起こる際は大抵建物にガタがきていたり、建物を利用する人間の誰かに超能力者がいるときだ。こういう場合は俺たちで工事関係者を呼ぶし、超能力もまたクライドの専門なので相棒に任せる。あいつ多芸なのはいいけど、絶対一般人に見せられない類のものばかりなんだよな……。あと有名なのは金縛り。あれは睡眠麻痺を呼ばれる立派な睡眠障害だ。こういうのは俺が丁寧に解説して簡単にアドバイスをしてお帰りいただく。クライドは口下手だし、言葉選びが下手だから任せられない。あいつが喋ると下手すりゃ依頼人を怒らせるからな。
そんな多芸なクライドとお手伝いの俺、ビリーは、母国のイギリス……ではなく、日本の東京で謙虚に(ここ重要!)活動している。本当は慣れ親しんだイギリスに永住したかったんだが――わざわざ日本語を覚える必要もないし――どういうわけかクライドは、自分が生まれ育った国があまり好きじゃないらしい。なら別の国に引っ越しちゃえばいいじゃん、と俺が提案したところ、思いのほかすんなり頷いたので、二人で必死こいて日本語を学び……うん、いや、ちょっと誇張入ったかな。クライドの上達が異様に早くて、俺は最終的にクライドに教えてもらう形でなんとか習得した。本人曰く「なんか性に合ってた」らしいけど。ちなみに俺たち二人とも、読み書きはてんでだめだ。ひらがななら書けるし読めるが、漢字はなんなのあれ。カタカナもなんなの。元ネタがラテン語だったりフランス語だったりするの本当やめて。混乱するから。
日本に来てからは大変だった。営業許可の取得とか、家の確保とか、もうそれだけでただでさえ少ない金が消し飛ぶのにバイト先で外人だからって弄られるし。外国人がみんな明るいと思うなよ、クライドは根っこから陰険なんだよ!って言うとぶん殴られるからお口チャックする。それでもなんとかこうして、「心霊調査団シャドウ」を開けたのは我ながらよく頑張ったなと思う。ちなみにネーミングは俺だ。二人じゃ団とは言わないだとか、シャドウってどこから持ってきたんだだとか、色々相棒から文句を言われたけど俺は引かなかった。だってカッコイイだろ?
色々と大変なことはあったけど、雑誌の記事に小さく宣伝してもらったりして、月に一回か二回くらい、依頼が来るようになって。それで完全に金銭面でやりくりできてるとは言わないけど、これが結構楽しいもんだ。色んな人と話す機会があるし、単純にクライドといるの好きだしな。へへ。ちょっと恥ずかしいなこれ。あいつには絶対言えないわ。照れるからな。
さて、閑話休題。話を戻そう。今回の依頼は学校の調査だ。それもただの学校ではない。工事途中の旧校舎に出る幽霊を除霊してほしい、という依頼だ。どうも心霊調査をしている、という噂よりも、クライドが行う除霊の噂の方が広く流れているらしく、依頼人の学校長もその噂を聞きつけたらしい。幽霊がいるならクライドだって除霊するけど、なんか学校って時点でちょっと怪しい感じだ。学校は人が多い分噂が流れる速さも尋常じゃない。話に尾ひれがつきまくって、真相はたいしたことありませんでした、ってパターンが多いのだ。なので、一応、調査はするしその分のお代は貰うけど、除霊はする必要がないかもって話はした。除霊込みだともうちょっと上乗せできるんだけどな。俺だって詐欺まがいのことはしたくねーし。それでも久しぶりの依頼はちょっと楽しみだ。今回は死に掛けないといいな。はは。
俺は事務所(あまり広くはない。別名接待所)のソファーに仰向けに寝転がり、向かい側のソファーに座って新聞を読むクライドに声をかけた。今回の依頼の話だ。
「つーわけで、もう依頼受けたから」
嫌がるかなと思ったが、クライドは眉一つ動かさず言った。
「……あながち幽霊が出るというのも間違いではないかもしれないな」
「はー?なんで?なんか噂聞いたの?」
「トラックの事故が起きている」
そう言って俺に向かって新聞の一面を見せる。
校庭でトラック暴走 生徒ら九人死傷――七人が重傷、二人が死亡した痛ましい事故だ。そういえばニュースでも見た覚えがある。すっかり忘れていたが。
「これで旧校舎の取り壊しが中断されたらしい。それ以前にも屋根が落ちて死人が出たとか、出ないとか……ここら辺は真偽が定かではないが。もう少し調べる必要がある」
「へー……え、なに?調べてたの?俺お前に話したっけ」
「個別でその学校から相談は受けていた」
さらりと俺の知らない話をする。クライドが言葉を続ける。
「噂を調べるために依頼を先延ばしにしていたんだ」
「……じゃあ俺受けない方がよかったの?」
「いや、どうせお前が勝手に取ると思っていた。依頼人にもそういう風に伝えてある。日時は?」
「今度の金曜日放課後、んと、4時半だったかな」
「わかった」
会話終了。口数が少ないのも困りものだ。俺は慣れているけど、はじめて会う人なんかはあまりの口数の少なさに戸惑うんだよな。まあクライドは根暗だし、陰険だし、無口だし、鉄面皮だし。戸惑うのも当然だ。でも本当はすっごくやさしーやつなのだ。これは俺だけ知ってればいいかな。クライドの理解者は俺一人で十分なのだ。うん。
旧校舎怪談
驚いたことに、校長は俺たち以外に多数拝み屋を雇っていたらしい。渋谷サイキックリサーチの所長(どう見ても十代)であるらしい渋谷一也(しぶや かずや)くんと、その臨時アルバイト谷山麻衣(たにやま まい)ちゃん。谷山ちゃんは俺たちを見ると目を丸くしていて、それが新鮮な反応でちょっと嬉しかった。俺たちが流暢に日本語を話すと目が落ちそうなくらい丸くしていて、思わず笑った。素直で可愛い子だ。
残りは自称巫女の松崎綾子(まつざき あやこ)に自称高野山の坊主である滝川法生(たきがわ ほうしょう)だ。それはいいのだが、俺たちと目的が完全に被ってしまった渋谷サイキックリサーチとは少しやりづらい。どうやら彼らも心霊調査を主としているらしく、しかも俺たちよりも機材が充実しているのだ。正直めちゃくちゃ羨ましい。簡単に自己紹介を済ませ、霊能者という扱いづらい職なためか心なしギスギスし始めた空気が流れ始めていたが、俺は気にせず渋谷くんに話しかけた。
「なぁ、渋谷って言ったっけ?この機材すげーな、どうやって揃えたの?めっちゃ金かかってんじゃん。いいなぁ。俺らなんとか家賃払うので精一杯だぜ。いつかこういうの揃えたいけど金ねーもん」
「あなたがたも調査を?」
「そうそう。俺はお手伝いだけど、うちの相棒がそうなの」
「あんたたちも謎よねえ」
巫女さんが呆れたように口を挟んでくる。
「なによ、心霊調査団シャドウって」
「それに関しては同意する」
「ひでえよクライド、俺、一所懸命考えたのに」
「頼んでない」
心なしか沈痛な面持ちで巫女さんの言葉に同意を示すクライドに、俺は泣き真似をしてみたが一蹴された。ひでえ。ここに鬼がいる。巫女さんと坊主は俺たちを渋谷くんと同じようなものだと認識したらしい。どうも視線が嫌疑的(使い方あってるよな?)だ。巫女さんと坊主は仲間なのかと思っているとそうでもないらしく、俺たちの話が引き金になったのか口喧嘩をはじめている。あっ待って待って、俺まだ早口の日本語はわかんねーの。
ふと意味もなくグラウンドの方を見ると、谷山ちゃんと同い年くらいの女の子がこちらに向かって歩いてきた。黒髪のおさげに細いフレームの眼鏡、膝下丈のスカートと、典型的な日本の優等生という感じだ。個人的な話だけど、俺は結構日本人、というかアジアの黒髪は綺麗だと思う。ベッドの白いシーツに映えるじゃん。下世話な話だけど。にひひ。
「谷山さん……この人たちは?」
女の子は渋谷くん、巫女さんと坊主、それに俺たちを見比べている。
「旧校舎を調査に来た人たち。校長が掻き集めたみたいだよ。そっちの二人は巫女さんと坊さんで、こっちの二人はナ……渋谷さんと同じ調査に来たんだって」
谷山ちゃんのクラスメイトなのだろうか。女の子は彼らが霊能者だと聞くとぱっと表情を明るくさせた。
「ああ、よかった……!旧校舎は悪い霊の巣で、あたし、困ってたんです」
……嫌な感じだ。俺は反射的にクライドの方を向いたが、彼は難しそうな顔で旧校舎をじっと眺めるばかりで、女の子の話を聞いていないようだった。ああ、嫌だ。俺、こういうの苦手なんだよな。巫女さんが顔を顰める。
「あんたが……どうしたんですって?」
「あたし、霊感が強いんです。旧校舎に溜まった霊の影響をもろに受けてしまって、始終頭痛はするし、聞きたくもないのにいろんなことを話しかけられて――」
「自己顕示欲」
「……え?」
「そんな嘘八百を並べてまで、自分に注目してほしい?」
自分に普通ない能力があると触れ回り、注目されることで欲を満たす。中高生によくある話。軽度ならば大人になって「あんなことしてたな恥かしいやははは」で済むが、この女の子は少し行き過ぎている感じがした。寂しい子なんだろうな、と俺は思った。巫女さんもまた、こういう職(本業なのかどうかは知らないが)についている限り、自称霊能者に出会うことも少なくないのだろう。もしくは、そんな自称霊能者に迷惑を被ったこともあるのかもしれない。あんまりな物言いに谷山ちゃんが思わずといった調子で庇うが、庇われた女の子からは表情が消えていた。
「あたしは霊感が強いの。霊を呼んであなたに憑けてあげるわ……偽巫女。
今に後悔するわ」
巫女さんは女の子を睨み返す。
「楽しみにしてるわ」
女の子は踵を返し、グラウンドの方へ駆けていった。
俺得でしかない。ビリーとクライドは養護施設育ちで、「レノックス」っていうのは施設の名前です。意味は特にないので深読みしてもなにもありません。
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ビリーの隠し事:FF6世界での記憶が断片的にある・自分が死んだときのことは覚えていない
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